アルゼンチンは緊急財政再建策を発表
アルゼンチンでは、通貨安に歯止めがかからない状況が続いている。年初からの下落率は、既に50%を超えた。マクリ大統領は3日、通貨ペソの暴落に対抗するため、輸出品への課税や省庁再編を含む緊急財政再建策を発表した。歳出削減のため、省庁の数も現在の半分以下に減らす考えも表明している。しかし、この緊急対策の発表にもかかわらず、同日の通貨ペソは先週末と比べ1%安とさらに下落した。
今年6月に 国際通貨基金(IMF)は、緊急時に融資を受けられる「スタンドバイ融資枠」をアルゼンチンに対して設定した。そのうち150億ドルの融資は既に実施されたが、マクリ大統領は残りの350億ドルの一部について早期の融資をIMFに求めている。
ドゥホブネ財務相は4日にIMFのラガルド専務理事と協議を開始した。緊急財政再建策の発表は、ここでの協議を進展させることを意識したものでもあろう。マクリ大統領は早期のIMF追加融資の実施を期待するが、通貨安に歯止めがかかっていないことは、市場がより慎重な見方をしていることを反映していよう。
通貨安に歯止めがかからない状況
アルゼンチンの中央銀行は、先月30日に、緊急利上げで政策金利を15%引き上げ、年60%とした。中銀は声明で「足元の為替の急激な変動と物価上昇への衝撃に対応するため、緊急会合で政策金利を60%に引き上げた」と発表した。また12月まで政策金利を下げない方針を打ち出した。中銀の緊急利上げは今年に入って5回目で、トルコの通貨リラ急落の余波で8月13日にも5%引き上げたばかりだった。
アルゼンチンは、①IMFからの支援、②大幅な利上げ、③緊縮財政政策と、通貨防衛のためのいわば3点セットを既に揃えていながら、通貨安に歯止めをかけることに失敗しており、ほぼ処置なしの深刻な事態に陥っている。
米大手運用機関がアルゼンチン債で大きな損失
アルゼンチン市場の調整は、グローバルな投資家にも既に大きな打撃を与えている。その一つが、米大手運用会社のフランクリン・テンプルトンだ。フィナンシャル・タイムズ紙によると(注1) 、アルゼンチンに投資する同社のファンドでは、過去2週間に12.3億ドルの損失が発生したという。この投資を主導したのは、問題を抱える新興国の債券投資で従来、収益を挙げてきた、ミヒャエル・ハーセンシュタブ氏だ。同氏が運用する368億ドルのグローバル・ボンド・ファンドは、8月に4.2%下落した。これは過去4年間で最も悪い月間パフォーマンスだ。
フランクリン・テンプルトンは、アルゼンチンの問題が表面化し始めた頃の今年5月に、22.5億ドルのアルゼンチン国債の発行をアレンジした。その相当部分を、同社のハーセンシュタブ氏が保有したようだ。その結果、6月末時点でフランクリン・テンプルトンが保有するアルゼンチン債の規模は、46億ドルに達したという。
アルゼンチンの債券投資で大きな損失を被っているのは、フランクリン・テンプルトンだけではないだろう。ピムコも3月末で53億ドルのポジションをアルゼンチンに持っていたという。また、ブラックロック、ゴールドマンサックス・アセットマネージメント、フィデリティといった米国の大手運用機関も、アルゼンチンの債券の上位保有者だ。アルゼンチン関連の損失は、米国の大手運用会社の間でかなりの広がりを見せているとみられる。
アルゼンチンやトルコなどでの最近の市場の調整は、投資資金を米国に還流させ、米国株高を支えているとの楽観的な見方もある。しかし米国での大手運用機関が揃ってアルゼンチンに大きなポジションを持ち、損失を拡大させているのだとすれば、それが米国金融市場に与える影響は、決してプラスばかりではないはずだ。
注1) “Bond market big names battered by deepening Argentina turmoil”, Financial Times, September 3, 2018
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