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中長期ゾーンの国債買入れ額は9月に減少見込み

日本銀行が中長期ゾーンの国債買入れを減額する傾向が、より明確になってきた。9月6日に行われた国債買入オペで、注目されていた残存5年超10年以下の国債買入れ額は、大方の予想通りに約4,500億円となった。これは、先月末に日本銀行が示した9月分の国債買入れ予定で、同ゾーンの1回当りオファー(買い入れ予定)額の中央値と一致した。他方で、8月の1回当り買入れ額4,000億ドルからは増額となった。しかし、8月末に公表された9月分の国債買入れ予定では、同ゾーンの月間買入れ回数は5回と、8月の6回から減少している。9月中、残る4回のオペでも日本銀行は同じ金額で買入れるとすれば、月間の買入れ総額は2兆2,500億ドルと、8月の実績値2兆4,000億ドルから減額となる。

同様に、9月分の国債買入れ予定では、残存3年超5年以下の月間買入れ回数は6回から5回に減らされる一方、9月4日のオペで、買入れ額は8月の3,000億ドルから3,500億ドルへ増額された。そして、月間の買入れ総額は上記と同様の計算で1兆7,500億ドルと、8月の実績値1兆8,000億ドルからやはり減額となる。

オペ変更は7月の政策変更の延長線

8月31日に日本銀行が9月分の国債買入れ予定を公表した時点では、中長期ゾーンの月間買入れ回数を6回から5回へと減額する一方で、1回当りオファー(買い入れ予定)額のレンジの上限が引き上げられたことで、月間の買入れ総額がどうなるのか、またその変更の背景にある日本銀行の意図が何か、が明確ではなかった。しかし、このように過去2回のオペの実績を見ると、国債買入れ額の一段の減額と、買入れ減額を通じた中長期ゾーンの国債利回り上昇の意図が読み取れる。

7月末に日本銀行が実施した政策変更は、中長期ゾーンの国債利回り上昇を意図した側面が強かったと考えられるが、1か月後の国債買入オペでは、それをさらに後押しする方向性が見られたといえる。1か月間は目立った動きが控えられたのは、金融市場の落ち着きを待っていたのかもしれない。

国債の平均残存期間(満期)短期化も

他方、9月に入ってからの国債買いオペの実績に基づいて試算すれば、利付国債(物価連動債、変動利付債を除く)では、3年以下のゾーンの買入れ構成比率が8月比で上昇する一方、10年超の買入れ構成比率は低下する。これは、日本銀行が、買入れ国債の平均残存期間(満期)を短期化することに着手した可能性もあるだろう。

2018年9月3日付けの当コラム(「 日本銀行は保有国債の平均残存期間短期化を進める見通し 」)でも指摘したが、保有国債の平均残存期間の短期化は、①イールドカーブをスティープ化させることから、金融緩和効果を減じる正常化の一環と理解できる。さらに、この措置は、②償還見合いで、将来の保有国債残高の縮小をより迅速にさせる、③日本銀行が将来、短期金利を引き上げる場合に、保有する国債からの利子所得の増加を助け、日本銀行の財務悪化のリスクを軽減する、という緩和の副作用を軽減する効果があり、この面からも、保有国債の平均残存期間の短期化は、正常化策の一環と理解できる。

7月末の政策変更から1か月で、国債買入オペの減額、買入れ国債の平均残存期間の短期化を通じて中長期金利の一段の上昇を促す姿勢を日本銀行が見せ始めたのだとすれば、日本銀行が10年国債利回り変動レンジの再拡大や変動レンジの廃止を通じて中長期利回りのさらなる上昇をより明確に促す次の行動をとるタイミングは、それほど遠いことではないかもしれない。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。