次の危機は世界同時型か
9月15日に、リーマンショック(グローバル金融危機)発生からちょうど10年を迎える。危機への対応が次の危機を準備する、といった循環論に立てば、金融危機が再び発生する可能性は小さいとは言えないのではないか。それは、リーマンショックの発生を機に、主要国が異例の金融緩和を実施し、それが金融市場に大きなひずみを蓄積してきたためだ。
10年前のリーマンショック、あるいは80年代の日本のバブル崩壊と比較した場合、次に起こるかもしれない危機は、特定の震源地を持たない、世界同時型になりやすいように思われる。リーマンショックでは、米国の不動産市場が震源地だった。また、日本のバブル崩壊では、日本の不動産、株式市場が震源地だった。他方、今回蓄積された最も大きなひずみは、世界の債券市場全体であるように思われる。
債券バブルが形成
リーマンショック後に主要国で採用された金融緩和策は、中央銀行が国債を大量に買入れるという、伝統的な金融政策とは異なる資産買入れ策だった。短期金利の低下余地が限られる中、長期国債の金利をできる限り低下させることで景気刺激効果を発揮させることが狙いだった。長期国債の金利低下は、投資家に深刻な運用利回りの低下をもたらし、それは、できるだけ高い金利の債券にリスクをとって投資を傾けていくという、「サーチ・フォー・イールド(利回り追及)」の動きを加速させた。その過程で、社債の金利と国債の金利との格差、いわゆるスプレッドが、信用リスクと比較して過度に縮小してしまうという、いわゆる「債券バブル」が形成されていった。不動産と比較すれば当然のこと、株式と比較しても債券市場の各国間での連動性はより大きく、そのバブル形成と崩壊は、グローバルに連動して生じやすいだろう。
ただし、債券バブルの崩壊は世界同時となりやすいとしても、その引き金を引くのは特定地域・国、特定イベントだろう。債券バブルの崩壊は、世界経済の悪化による社債の信用リスクの顕著な上昇か、あるいは国債の金利上昇、国債市場のボラティリティの上昇などが引き金となりやすい。
トランプ貿易戦争が引き金に
世界経済を悪化させるリスクとして、最も差し迫っているのは、米中貿易戦争の激化や自動車・自動車部品への追加関税導入といった、トランプ政権の保護主義政策のさらなるエスカレートだろう。
また、米国の「双子の赤字」問題がより深刻化すれば、ドルの信認が低下し、海外からの資金流入が滞ることで米国債の金利上昇が生じやすくなる。双子の赤字の背景にある、大型減税実施などによる財政需要超過に対応する構造改革にトランプ政権が着手すれば、そのリスクは軽減されるが、現状では米国の貿易赤字拡大の原因を貿易相手国の不公正貿易や通貨安政策に求めて、貿易戦争を仕掛けるトランプ政権の姿勢が変わる兆しは見られない。
日本の金融政策も引き金に
他方、国債買入れ策を最も積極的に実施してきた日本で、国債の流動性の低下から国債市場のボラティリティがにわかに高まる事態となれば、それも世界の国債市場のボラティティ上昇につながり、債券バブルの崩壊を引き起こす可能性があるだろう。
日本銀行はそのリスクを軽減させるために、国債買入れ増加ペースの縮小やイールドカーブコントロールの修正という事実上の正常化をすでに進めている。しかし、国内経済が悪化した場合、政府が国債発行増発を伴う形での財政出動を実施し、日本銀行に対して協調策として国債買入れの再拡大を要請する可能性がある。日本銀行がそうした政府からの要請を拒否することができなければ、国債の流動性の低下から国債市場のボラティリティが高まるリスクが、再び現実味を増すだろう。
このように、次のグローバル金融危機の引き金となる火種は、日米を中心に世界に多く散らばっているように見受けられる。他方で、ひとたび金融危機が生じた場合に金融緩和で対応できる余地は、10年前よりも格段に限られている。財政政策についても同様だろう。また、リーマンショック直後のように、中国が4兆元(当時の為替レートで約52兆円)の巨額の景気対策で、再び世界経済を救ってくれることはないだろう。非常に厳しい現実に、世界は今、直面している。
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