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ドイツのウェーバー氏が欧州委員長候補に名乗り

欧州議会の最大派閥である中道右派の欧州人民党(EPP)の代表でドイツ出身のアルフレッド・ウェーバー議員が、2019年9月秋に任期が切れるユンケル委員長の後任候補として名乗りを上げた。ウェーバー氏は、まずは、今年11月にEPP内で委員長候補に選出されることを目指す。

欧州委員長は、来年5月に行われる欧州議会選挙で最大多数となった会派の委員長候補が選ばれる可能性が高い。ウェーバー氏がEPP内で委員長候補に選出され、さらに議会選挙でEPPが最大多数を維持すれば、ウェーバー氏が委員長に就任する可能性が高まる。

ウェーバー氏は、ドイツのバイエルン州出身でメルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹党、キリスト教社会同盟(CSU)に属している。

メルケル首相もウェーバー氏を支持か

メルケル首相は、欧州中央銀行(ECB)の次期総裁のポストをドイツが得ることよりも、ユンケル委員長の後任にドイツ人が就任することを優先する考えであると、先日報じられた。また、メルケル首相が率いるCDUもEPPに属していることから、メルケル首相が委員長候補に正式に押せば、ウェーバー氏が委員長に就任する可能性は高まろう。メルケル首相は既に、11月のEPP内選挙でウェーバー氏を委員長候補に推薦することを正式に決めたとの報道もある。

ウェーバー氏は、トルコのEU加盟に関する議論を打ち切ることを提案している。また、国境のフェンスを強化して、難民の流入を抑える政策を主張している。これは、難民受け入れに寛容なメルケル首相とはやや異なる立場である。さらに、EU各国が協力して、がん治療法の発見に努めることも主張している。

委員長の選出ルールには異論も

委員長は、欧州議会選挙の結果を考慮して、また適切な協議を行ったうえで、欧州理事会が欧州議会に対して委員長候補を提案し、欧州議会がその構成員の多数でもって選出する、と規定されている。従って、2019年5月の欧州議会選挙でEPPが最大勢力を維持しても、その代表が自動的に委員長に就くとは限らない。

欧州議会選挙の結果を委員長選出に結び付ける今までの慣例については、マクロン・仏首相が反対している。さらに委員長は加盟国の首相経験者や重要閣僚経験者から選出されるのが今までの慣例であったが、ウェーバー氏はドイツでの国政の経験はない。

現時点ではメルケル首相が推すウェーバー氏が委員長の最有力候補と考えられるが、欧州理事会が、最終的に別の人物を欧州議会に提案する可能性も残されていよう。その場合は、フィンランド前首相のアレックス・スチュブ氏、ブレグジット交渉にあたるミヒャエル・バーニア氏などが有力となろう。

他方、ドイツ人が就任する可能性が大きく後退したECB総裁の後任については、フィンランド中央銀行の前総裁リーカネン氏が最有力との観測が出ている。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。