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政府はキャッシュレス決済でのポイント還元を検討

消費税率引き上げをちょうど1年後に控えた10月1日に日本経済新聞社が報じたところによると、消費増税の反動減対策の一環として、中小小売店での商品購入時に、消費者がクレジットカード、電子マネーなどキャッシュレス決済を選んだ場合、その購入額の2%分をポイントで還元することを政府が検討しているという。適用期間は消費増税後数ヶ月に限るという。また、2%分のポイントはカード会社などを通じて還元し、その会社の負担分を国が補助する。

これは、消費増税の反動減対策とキャッシュレス化の推進を同時に狙った一石二鳥の策といえるかもしれない。財政資金を用いて消費増税の反動減対策を実施することが本当に必要であるかについては、筆者はかなり懐疑的であるが、キャッシュレス化の推進策は支持したいところだ。

さらに、ポイント還元は、ポイント好きの日本の消費者がキャッシュレス決済を選択するインセンティブを高めるだろう。日本銀行の生活意識に関するアンケート調査(2018年6月調査)によると、決済手段の選択時に重視する項目として、キャッシュレス決済を利用する人の58.4%が挙げたのが、この「ポイントや割引などの利便性」だった。

省庁が連携して企業と消費者の双方から働きかける必要

日本でも電子マネーの利用はかなりの広がりを見せているが、それが現金需要を大きく代替しているようには見えない。日本の消費者は支払う金額によってその手段を使い分ける傾向が、他国の消費に比べて大きいように思える。小額決済では電子マネーを、高額決済ではクレジットカードを利用し、その中間で現金を利用する。金融広報中央委員会の調査によれば、2010年と2017年の間に、そうした傾向はさらに強まっている。

おそらく、小額決済と高額決済の中間で利用されるキャッシュレス決済手段が広がらないと、日本の現金決済は大きくは低下しないのではないか。そして、その有力な決済手段こそが、スマートフォンを用いた決済、いわゆるスマートフォン決済ではないかと思われる。そのスマートフォン決済については、ITリテラシーの問題や、セキュリティへの不安などから、日本ではなお広がりを欠いているのが現状だ。

今回のポイント還元措置で、政府は中小店舗に読み取り端末を配布する方針だという。これは、支払いの受け手、つまり企業側への対応だ。しかし、既に見たような問題を解決しつつ、中高年齢層にスマートフォンの保有を広め、スマートフォン決済を促すといった、いわば消費者側への対応も同時に進めないと、キャッシュレス化は大きく進まないのではないか。

政府は、現在2割程度にとどまるキャッシュレス決済の比率を、2025年に4割へと高めることを目標に掲げている。しかし、それを推進しているのは経済産業省だ。つまり、支払いの受け手側である企業を所管する省庁である。支払いを行う消費者側に働きかけるのであれば、それは金融庁、あるいは日本銀行の役割となろうが、双方ともに、キャッシュレス化推進に積極的に関わろうとしているようにはみえない。

日本でキャッシュレス化を進めるには、企業と消費者の双方に同時に働きかけることが必要だ。それには省庁間での連携が重要となってくるだろう。この観点が、今までのキャッシュレス化推進策に欠けていたのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。