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IMFは世界経済見通しを下方修正か

国際通貨基金(IMF)は来週、インドネシアのバリ島で年次総会を開く。そこで、最新の世界経済見通しも発表する。それに先立って1日に、IMFのラガルド専務理事は、経済情勢などをテーマにした講演を行った。そこでは、貿易摩擦の影響などから、世界経済の風向きが怪しくなっているとの見方が示された。最近では珍しいほど、慎重な見方である。前回7月には、IMFは2018年と2019年の世界の成長率を+3.9%と予想していたが、これが下方修正される可能性が出てきた。

ラガルド専務理事は、1年前には「世界経済は輝いている」と表現し、半年前には「地平線上に雲(リスク)が見える」と表現したが、今回は「リスクが顕在化し始めた」とした。

IMFが考える世界経済の最大の懸念材料は、米国を中心とする貿易問題だ。これは、貿易活動を損ねるだけでなく、先行きの不確実性から企業の投資や生産活動にも悪影響を及ぼしている。先進国では、ユーロ圏と日本で成長鈍化が特に目立っている、とラガルド専務理事は指摘している。また、貿易問題に揺れる中国でも成長鈍化が確認できる。

さらに、南米、中東などの新興国の一部は、ドル高傾向による資金流出のリスクに直面しており、金融環境の引き締まり傾向もみられる。こうした不安定な金融情勢は、今後、他の地域にも伝播する可能性があるだろう。現在の貿易問題がさらにエスカレートすれば、先進国、新興国ともに広範囲に経済への悪影響が生じる、とラガルド専務理事は警鐘を鳴らしている。

懸念は貿易問題と債務問題

世界経済に対するIMFの不安は、貿易摩擦問題にとどまらない。より構造的な問題としてIMFが従来から指摘してきたのが、世界規模での債務増加だ。IMFの推計では、世界の公的・民間債務残高は、現在182兆ドルと過去最高水準に達している。これは、2007年時点と比べて60%も高い。そのもとで、仮に金利水準が高まれば、政府や民間企業の活動をかなり抑制する可能性があるだろう。

さらに、金融情勢が不安定となり、新興国(中国を除く)から資金が流出する事態となれば、その規模は1,000億ドルにも達するとIMFは試算している。世界規模での債務の増加は、金融不安を生じさせやすい環境も作りだしている。

こうした世界経済のリスクを管理し、改革を進め、貿易など国際体制を改善させる努力が今求められている。世界は、「ただ漂っていてはだめで、ボートを前に進めることが必要だ」、とラガルド専務理事は各国に強く訴えかけている。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。