モアタイムシステムが稼働へ
全国銀行協会(全銀協)は10月9日の15時30分から、24時間・365日、他行の口座に送金できる新システム、モアタイムシステムを稼働させる。全銀協に加盟する全国の金融機関の約500行が参加する。これによって、現在は平日の午前8時半から午後3時までに限られている即時決済が、休日や深夜でも可能となる。オンラインショッピングでの決済が迅速に行われるなど利用者の利便性が高まる。まず、三菱UFJ銀行や三井住友銀行などが当初からこのシステムに参加する。次期勘定系システムの移行作業を進めているみずほ銀行は、当初は参加しない。
日本でATMを利用して即時に振り込みや送金ができるのは、金融機関同士が資金決済を行っているためだ。それは、全国銀行データ通信システム(全銀システム)と、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)の二つの仕組みを使ってオンライン処理されている。全銀システムは、半世紀近く前の1973年に稼働が開始された。稼働時間内においてリアルタイムで決済ができ、以前は世界に誇るシステムだった。
しかし、英国やシンガポールなどで銀行間決済の24時間週7日稼働が広がったことで、稼働時間が平日の7時間に限られている日本の全銀システムは不便だという指摘が高まってきた。「世界で広がるフィンテックは既存の銀行サービスに対する利用者の不満の反映」と受け止めた日本の銀行が、最初のフィンテック対応としたのがこの新システムの導入だった。
銀行にとってレガシーコストにも
ところで、銀行間で即時に決済されるといっても、最終的な決済(ファイナリティ)が即時に行われる訳ではない。送金の情報は、資金の送り手の銀行から、資金の受取人となる企業や個人が口座を持つ銀行に送信されるが、実際に2つの銀行の間で現金決済がなされるわけではない。1日の銀行間の送金は双方向で膨大な数に及ぶため、全銀システムは各銀行からの双方向の支払い指図を集め、1日の業務終了後に受け払いの差額、いわゆる決済尻を計算する。
そして、全銀ネットはこの決算尻を日銀ネットに送信する。日本銀行は、全銀システムからの送信情報に基づいて各銀行が日本銀行に持っている日銀当座預金への入金や引き落としを行い、最終的な銀行間での決済が完了する。1億円以上の大口取引は、全銀ネットではなく当初から日銀ネットで決済される。
今回の24時間・365日の銀行間決済には、日銀ネットは含まれていないため、ここに未決済リスクが生じ得る。24時間・365日の銀行間決済によって、最終的な決済(ファイナリティ)までに時間がかかるためだ。この間、仮に銀行が破綻すれば、貸倒れからシステミックリスクが生じる。この点から、24時間・365日の日銀ネット稼働も、将来的には課題となるかもしれない。
もう一つの問題は、民間銀行が、既存の全銀ネットに加えて、今回の24時間・365日の銀行間決済のために、新たに巨額のシステム投資を実施したことだ。いわゆるこれが、レガシーコスト(負の遺産)となることも懸念される。
現在、民間業者がより安価で構築するスマートフォン決済など新しい決済システムの広がりが、銀行の決済ビジネスを圧迫している。レガシーコストを一段と高めたもとでは、銀行の収益が一段と圧迫される可能性がある。銀行が新システムの導入を決めた時点よりも、こうした傾向は格段に強まっているのである。
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