LINEの金融リデザイン(再設計)構想
無料通信アプリ大手のLINEは11月27日、みずほFG(フィナンシャルグループ)と共同で銀行業に参入する計画を発表した。新銀行の名称は「LINEバンク」で、2019年春に準備会社を設立して、銀行免許を取得した後に2020年の開業を目指すという。新銀行には、LINEの金融子会社が51%、みずほFG傘下のみずほ銀行が49%をそれぞれ出資する。LINEにとっては、銀行業務のノウハウを吸収できることに加えて、銀行免許の取得に大きな助けとなることが、みずほFGと連携した大きな誘因となったのだろう。
LINEは、今の金融サービス全体をより利便性の高いものへと劇的に変えていく、「金融のリデザイン(再設計)」構想を描いている。実際、LINEは、スマートフォンを使ったQRコード決済のLINEペイを2014年から展開しており、さらに今年10月には小口投資商品や保険の販売も開始している。
将来的には、中国のアリペイなどが行っている、スマートフォン上であらゆる金融サービスを提供できるワンストップ型をLINEは目指しているのではないか。今回の新銀行設立も、こうした壮大な構想の上にあるのだろう。
みずほFGの狙い
LINEは、すでにスマホ決済を通じて、既存の銀行業の決済ビジネスを切り崩している。この点から、今回の新銀行の設立では、みずほFGはいわば競合相手と手を組むことになる。さらに新銀行自体が、みずほ銀行の業務と競合することにもなる。
みずほFGの岡部副社長は、新銀行の設立について、「メガ銀行が苦手としているデジタルネイティブの若い世代と接点を持つことができる」、とみずほFG側の狙いを説明している。若年層は、ネットで手続きやサービスが完結する形態を好み、従来型の銀行との取引が一切ない人も少なくない。こうした危機感から、新銀行を通じて若年層の新規顧客を開拓していく足掛かりとすることを、みずほFGは狙っているのだろう。
さらに、みずほFGにとって今回の新銀行設立は、既存の銀行業務を極力デジタル化していく、デジタル銀行ビジネスに向けた布石であり、また、それに向けたテストケースとする意図があるのではないか。
店舗、人員、システム投資など、既存の銀行は大きなインフラを抱えている。これらを投げ捨てて一気にデジタル銀行化にまい進することは現実的ではなく、漸進的なビジネスモデルの変化を選択せざるを得ない。そのような構想の下、どのような分野から、どのようなペースでビジネスモデルを変えていくのが適切か、その場合、どのような人材が必要になり、どのような人員構成が適切となるのか、などをかなり長期の視点から見定めていくことが必要となるだろう。そのために新銀行を活用していくという意図が、みずほFGにはあるのではないか。
スコアリング融資が中核か
新銀行が、実際にどのような業務を行うのかについては、あまり明らかにされていない。LINEは、店舗を持たず、スマートフォンを使ったキャッシュレス決済や借り入れなど、若者を中心とするLINE利用者が使いやすいサービスを提供することを検討しているとされる。
LINEは新銀行の設立計画を公表した日に、2019年上期をめどに個人の信用力を点数化した「スコアリング」を使った融資サービスを始めることも、あわせて発表している。これが、いずれは新銀行の中核業務の一つとなる可能性もあるのではないか。
LINEは、みずほ銀行とみずほFG傘下の信販大手オリエントコーポレーションと協力し、ローンなどの際に信用力を測る新たな指標「LINEスコア」をつくる。顧客の同意を得たうえで、LINEのアプリの利用履歴などビッグデータを集め、個人の信用度を点数化し、それをもとに融資を行う。
ところで、スコアリング融資といえば、みずほ銀行は2017年9月に、ソフトバンクとの合弁会社J.Scoreを設立し、「AIスコア・レンディング」を開始しており、既にこの分野で相応のノウハウを蓄積している。LINE側は、ノウハウの吸収が可能となる。
ここでは、AIを活用して融資の不可や融資条件などを決定することで、効率的な融資業務が可能となっている。信用度判断に活用されるのは、顧客が自ら提供した個人情報とみられるが、「LINEスコア」では、SNSやネット上の情報も加えられ、また若年層の顧客を取り込むことも可能となる。みずほFGにとっては、スコアリング融資を一層拡大していくためのきっかけとなるかもしれない。
このスコアリング融資は、LINEとみずほFGがウィンウィンの関係を作り上げることができる有力な分野だ。この点が、競合関係にあるはずの両者が、新銀行の設立で手を組んだ、大きな誘因となっているのかもしれない。
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