政府は景気回復が戦後最長を更新と認識
1月29日に開かれた月例経済報告に関する関係閣僚会議で、第2次安倍政権発足時の2012年12月に始まった今の景気回復が、今月で6年2か月と戦後最長を更新した可能性が高い、との認識が示された。これに対して、景気回復の実感がない、との批判的な見方がある。また、金融市場や企業からは、世界経済が近い将来に後退局面に陥ることを懸念する声も聞かれる。
多くの機関が、経済指標や金融指標、あるいは企業やエコノミストへのアンケートなどに基づいて、近い将来に景気が後退局面に陥る確率を算出している。
例えば、ウォールストリート・ジャーナル紙によるエコノミストサーベイの結果(1月分)によると(注1)、向こう1年以内に米国で景気後退が始まる確率は約25%となった。これは、2011年以来の高水準だ。JPモルガンの経済変数に基づく景気後退予測モデルによれば、景気後退確率は約43%である。また、米国債利回りをベースにするニューヨーク連邦準備銀行のモデルでは22%だ。これは、過去3回の景気後退前のピーク水準である約40%~50%と比べれば低いものの、昨年の年末にかけて数値は急上昇を見せた。(注2)
さらに、しばしば景気後退の可能性を計る指標とされる、米国の財務省証券利回りに注目すると、昨年12月には、約11年ぶりに5年債と2年債の利回り水準が逆転した。逆転現象は足もとまで続いている。
金融市場の不均衡の計測が重要に
日本では、日本経済研究センターによる景気後退確率は、2018年11月時点で6.8%と前月から1.1%ポイント上昇し、中国景気の減速懸念があった2016年3月以来、2年8か月ぶりの高い水準となった。確率の算出に用いられている、株価指数や商品指数など金融関連指標の悪化が影響したという。ただし、景気後退入りの目安となる水準は67%とされ、この水準から見れば引き続きかなり低い数値となっている。さらに、東京財団政策研究所・政策データラボ「リアルタイムデータ等研究会」によると、2018年11月の景気後退確率は13%だという。これは、景気動向指数の一致指数に採用されている経済指標から算出されている。
このように、日米で各機関が計算している景気後退確率はまちまちの結果を示しているが、どの結果も景気後退確率が危険水域まで高まったことを明確に示すものではないとは言えるだろう。
しかし、当コラムの 「戦後最長の景気回復の秘密」 (2019年01月25日 )で既に指摘したように、経済の潜在力低下を背景に、日本そして世界の経済は、景気回復が長期化しても景気が過熱することがない反面、低金利が長期化するもとで、金融市場の楽観論が行き過ぎ、金融市場が過熱しやすくなっている、といった構造変化を近年起こしている可能性が考えられる。不均衡が蓄積した金融市場で自律的な調整が起これば、世界経済は緩やかで息の長い回復から、一気に失速してしまう可能性もあるだろう。
こうした点を考えると、景気の先行きを判断する、あるいは景気後退の確率を考える上では、経済指標に基づく伝統的な判断手法よりも、金融市場の不均衡、歪みを計測する手法をより重視する方向に、軌道修正を図っていくことも必要かもしれない。
(注1)"Chances of Recession Are Rising", Wall Street Journal, January 28, 2019
(注2)ただし、1998年の金融危機時には、このニューヨーク連銀のモデルで景気後退確率は33%に達したが、その後は急速に低下し、翌年には好景気になった、というケースもある。
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