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与野党が暫定予算案で合意

米国では、2月15日に政府閉鎖の一時解除が期限を迎える。つなぎ予算案が可決されない場合には、政府閉鎖が再開される可能性がある。ただし、現時点では、それは回避される方向にあるように見える。

11日には与野党指導部が、政府閉鎖再開の回避に向けた暫定予算案で合意した。ただし、同案が仮に上下両院で可決されても、大統領が署名しなければそれは発効しない。この与野党合意に対するトランプ大統領の反応は曖昧なものだ。同合意には満足していないことを示す一方で、政府機関の再閉鎖はないだろう、としている。

新予算案では、トランプ大統領が壁建設に必要としてきた57億ドルを大きく下回る、13億7,500万ドルで55マイル(約90キロメートル)のフェンスを国境沿いに新設する予算を含んでいるという。また、このフェンスについては、壁(Wall)ではなく、物理的な障害(Physical Barriers)と表記されている。トランプ大統領は既に、「コンクリートの壁」を作るとした当初の主張を、「鉄柵の壁」にまで譲歩している。しかし、壁(Wall)はトランプ大統領の政策姿勢を体現するシンボリックな言葉となっており、この言葉を使わないことを認めれば、それはトランプ大統領にとっては民主党に対するかなりの譲歩を意味する。

残される非常事態宣言の可能性

トランプ大統領はツイッターで、国境警備には与野党が合意した13億7,500万ドルではなく、23億ドルの予算が確保できる、という見通しを示している。その根拠については示していないが、トランプ大統領が与野党間で合意されたこの新予算案に署名し、政府閉鎖再開を回避した後に、非常事態宣言をするとの見方が出ている。

トランプ政権は、非常事態宣言をすることで、災害復興向けに確保されていた国防予算を壁の建設に活用するなど、議会の承認を経ずに政府が壁の建設を進めることを以前から検討してきた。仮に非常事態宣言を通じて、大統領権限で壁建設の予算が確保されるのであれば、与野党間で合意された新予算案に「壁(Wall)という言葉が使われていなくても、トランプ大統領が譲歩したことにはならない。

しかし、戦争や甚大な自然災害時の発動が想定されている非常事態宣言を国境警備強化のために政府が行えば、憲法違反の疑いもあるとして法廷闘争に発展する可能性もある。

政府閉鎖再開が回避される方向にあることは歓迎したいが、仮に、非常事態宣言でトランプ大統領が壁建設の予算を確保することを図る場合には、大統領と民主党との対立は一層激しいものとなろう。その場合、政府閉鎖回避が、内政の一段の混乱のきっかけとなる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。