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中国企業は銀行借り入れから社債発行にシフト

年明け後、中国で社債の発行額が大幅に増加している。中国では、景気減速から企業の資金需要が鈍化していることや、デフォルト懸念から投資家が社債の購入に慎重になっている、との印象が強い。これに照らすと、社債発行増加という現象には違和感がある。

年初から2月20日までの中国での新規社債発行額は、1兆700億人民元(1,592億ドル)に達し、昨年の同時期の6,614億人民元と比べて、1.6倍以上となった。これは、少なくとも過去10年間で最大だ。また、償還分を除いたネットの発行額は3,923億人民元と、昨年の同時期の2倍以上である(注1)。新規発行分には、大手エネルギーのペトロチャイナ、大手金融のCITICグループなども含まれている。

景気対策の一環として、中国人民銀行は、昨年から年初にかけて預金準備率の引き下げを段階的に進めてきた。これは民間銀行の貸し出し余力を高めることになったものの、民間銀行は企業に対する貸出を増加させることに慎重であり、この点から、中国人民銀行の狙いは外れた面がある。

他方で、この金融緩和措置は、社債の利回りを低下させている。その結果、社債の発行環境は改善している。そのもとで、企業は銀行借り入れから社債発行へと、調達手段をシフトしたのである。もともと政府は、間接金融から直接金融へと、企業の資金調達のチャネルを変更することを志向している。さらに、景気対策の観点から、社債発行の増加を容認あるいは支援している面もあるのかもしれない。年明け後の社債発行増加には、こうした背景がある。

地方融資平台のドル建て社債で利払い不履行が発生

ところで、年初からの社債発行は、国有企業や地方政府が関与する地方融資平台が中心であり、民営企業によるものは少数にとどまっている。それは、国有企業や地方融資平台が発行する社債は、格付けが高いためである。社債の発行環境が改善したのは、高格付け分野が中心であるようだ。相対的に格付けが低い民営企業による新規社債発行は、年初からの発行全体のわずか12%にしか過ぎない。

ところが、その地方融資平台が発行する社債にデフォルト懸念が広がっている。ブルーブバーグ社が報じるところでは(注2)、地方融資平台と見なされている青海省投資集団(QPIG)がドル建て債の利払いを滞らせたのだ。アルミニウム生産の同社は、2月22日が期限であった利払いができていないことが、明らかになった。重要なのは、政府が救済の手を差し伸べることなく利払いが不履行に至ったことだ。これを、デフォルトを容認する政府の姿勢の表れと見る向きもある。

仮に、政府が地方融資平台の社債のデフォルトを容認する姿勢を強めているのであれば、それは、政府による暗黙の保証を減じ、適正な市場価格の形成を促す、いわば構造改革の一環と言えるだろう。

この点から、政府は、景気対策と企業の過剰債務削減という構造改革の間で政策の優先順位を決めきれず、政策姿勢がなお揺れ動いている状態にあるのかもしれない。こうした点を踏まえても、年明け後の社債発行額の増加を、中国の社債市場の本格回復を意味すると理解するのは早計であり、また、発行増加がさらなるデフォルトの増加に繋がるリスクも相応にあるだろう。

(注1)"China Starts Year With Flurry of Debt Deals", Wall Street Journal, February 22, 2019
(注2)「中国に驚き広がる-『融資平台』とみなされている企業が利払い不履行」、ブルームバーグ、2019年2月26日

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。