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大手運用会社の米バンガード・グループは、米国で、10本のETF(上場投資信託)の運用管理手数料(信託報酬)を引き下げることを決めた。これは、資産運用会社による手数料引き下げ競争を、一段と激化させるものとなろう。

手数料引き下げの対象となるバンガードのETFには海外株式・債券も含まれ、その時価総額は1,750億ドル程度だ。そのうち最大なのは、630億ドル規模のバンガード・FTSE新興市場ETFである。その運用管理手数料は、1万ドルの投資に対して14ドル(0.14%)から、12ドル(0.12%)へと引き下げられる。これによって、競合するブラックロックのiシェアーズ・コアETF商品の手数料を下回ることが意図されている。さらに、バンガードの他の投信43本についても、手数料が引き下げられる。

バンガードは、ETFの資金が流れ込み、その規模が急速に膨らんでいるという、いわば「規模の経済」が、手数料の引き下げを可能にしていると説明する。ETFの手数料引き下げ競争は過熱気味であるが、その背景には、低い手数料に対する投資家の高い選好がある。その結果、最も手数料の安いファンドに資金が流れ込む構図となっている。

昨年には、フィデリティ・インベストメントが、運用管理手数料ゼロの投資信託の販売を始めた。それ以降、運用管理手数料ゼロのETFも遠からずして出てくるとの観測が強まっていた。実際、オンラインのソーシャル・ファイナンスは、初めて、運用管理手数料ゼロのETFを計画している。ただし、無料であるのは最初の1年だけであり、2年目からは0.19%の手数料がかかるという。現在のところ、最も安い米国株式ETFは0.03%~0.04%だ。

手数料引き下げ競争は、売買手数料にも及んでいる。2月初めには、ネット証券大手チャールズ・シュワブとフィデリティ・インベストメンツは、売買手数料が無料のETFの取扱数を大幅に増やすと発表した。チャールズ・シュワブはオンラインで無料売買できるETFの取扱数を倍増し、フィデリティは売買手数料無料のETFの取扱数を500本以上に増やす。

ETF市場が拡大を続けている間は、手数料引き下げが運用会社の収益に与えるマイナスの影響は顕在化しにくい。しかし、手数料引き下げ競争による消耗戦の果てに、投資家の投資が手控えられるような金融市場環境となれば、資金流出を伴い運用会社の収益性に深刻な打撃が及ぶのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。