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BBB格社債に傾く投資家

国際決済銀行(BIS)のデータによれば、2000年の時点で社債全体の中でBBB格の占める比率は米国が30%、ユーロ圏が21%にとどまっていた。ところが2018年には、米国におけるその比率は34%、欧州ではさらに高く48%にまで達している。こうした状況に、BISは最新の四半期報告書(2019年3月)の中で、BBB格社債市場が抱えるリスクに警鐘を鳴らしている。

BBB格社債の発行が増加している背景には、投資適格(IG)社債への投資を投資基準として義務付けられる運用担当者が、その中でも最も運用利回りの高い、投資適格最低格付けのBBB格社債に投資を集中させ、その結果、BBB格社債の発行環境が改善していることがある。

これは、投資信託についても同様である。2010年以降、A格社債以上の投資適格社債に投資する投資信託の構成比が欧米で共に低下する一方、BBB格以上の投資適格社債に投資する投資信託の構成比は上昇傾向にある。その比率は、米国では2010年第1四半期の18.1%から、最新の2018年第4四半期には44.3%まで高まった。欧州でも同時期に15.5%から46.7%へと上昇している。

しかし、運用担当者が、投資適格最低格付けのBBB格社債への投資を拡大させるには、大きなリスクを伴うだろう。景気情勢がひとたび悪化すれば、BBB格社債は投機的格付けのハイ・イールド債(ジャンク債)に一気に格下げされるためだ。その際、投資適格社債への投資というルールのもとでは、運用担当者はその社債、あるいはそれで運用する投資信託を一気に売却することを強いられる。いわば、投げ売り(fire sale)だ。

BBB格社債格下げで投げ売り

BBB格社債が投機的格付けのハイ・イールド債に格下げとなった割合をみると、景気回復が続くもと、欧州では、リーマンショック後には概ね低下傾向を辿っているが、米国では2013年以降上昇傾向を辿っており、欧米共に2017年には7%弱の水準となっている。

証券業金融市場協会(Securities Industry and Financial Markets Association)は、米国市場でBBB格社債が投機的格付けのハイ・イールド債に格下げされた場合の、市場への影響を試算している。BBB格社債のうち10%が格下げされると仮定し(2009年の実績は11.4%)、その社債の3分の1が投げ売りされる場合には、その売却額は社債発行残高全体の0.38%となる。これは、現在のBBB格社債の一日の売買高が社債発行残高全体に占める比率の0.27%を上回る。

この試算からも、BBB格社債が格下げされる場合には、市場に深刻なダメージが及ぶことが容易に推測できる。こうした点から、欧米で進むBBB格社債の拡大には、大きなリスクが潜んでいると考えるべきだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。