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米国は、次世代通信規格「5G(第5世代)」のネットワークから、中国企業のファーウェイ(華為技術)製品を排除するよう、他国への働きかけを続けている。例えば、入札からファーウェイ製品を排除しない考えを打ち出したドイツに対して、「排除しない場合には、今後機密情報などの米独間の共有を制限する」と警告している。

しかし、5Gに関連する特許では、ファーウェイなど中国企業が世界を席巻している状況だ。ファーウェイが保有する5Gに関わる規格必須特許(Standard Essential Patents)の数は、2月初めの時点で1,529件に上った。データ解析会社IPリティックスによると、ZTE(中興通訊)などを含む中国企業全体が保有する特許件数は、世界の36%を占めているという(注1)。他方、クアルコムやインテルなど米国企業が占めるシェアは14%にとどまっており、米国に対する中国の優位は明白だ。

中国が保有する特許には、5Gの端末の構成部品、基地局、自動運転車の技術など、あらゆる5G関連製品に関わる技術が含まれている。4Gでは、中国企業が占める特許シェアは、5Gの半分程度だった。その結果、中国企業は、ライバル企業の技術を使用するのに特許権使用料(ロイヤルティ)を支払わなければならず、その負担も大きかったのである。

そこで、5Gの技術開発では中国は先手を打ち、研究開発に常にライバルを上回る資金を投じてきた。2017年のファーウェイの5G関連の研究開発費は130億ドル(約1兆4,420億円)に上り、ライバルのエリクソンとノキアを合わせた金額を上回ったという。

欧米各国では5Gのネットワークからファーウェイを排除する動きが広がっているが、それでも、中国が開発した技術が5Gネットワークの中心にあるという状況は揺るがない。欧米各国が、仮に5Gの基地局にファーウェイ製品ではなくエリクソンやノキアの製品を導入したとしても、ファーウェイには恐らく巨額の特許権使用料が支払われることになるだろう。

他方、エリクソンやノキアの製品と比べて、ファーウェイの製品の方が、品質が良いうえに価格がかなり安い、という声も良く聞かれるところだ。他社の製品に、ファーウェイが高めの特許権使用料を要求する場合、その製品はより割高となるだろう。そのことを通じて、割安なファーウェイ製品の購入を各国に促していくという戦略をとることで、ファーウェイは同社製品を世界で排除しようとする米国に対抗することもできるのではないか。

(注1)"Where China Dominates in 5G Technology", Wall Street Journal, March 1, 2019

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。