ダンスケ銀行とスウェドバンクの資金洗浄疑惑
バルト3国の銀行システムは、北欧系の外国銀行に席巻されてきた。銀行の総資産に占めるその比率は、エストニアとリトアニアでは5分の4程度、ラトビアでは3分の2程度に達する。冷戦崩壊後、バルト3国は成長のフロンティアであると考えられ、デンマークのダンスケ銀行、スウェーデンのスウェドバンク、SEB、フィンランドのノルデア銀行、ノルウェーのDNBなどが、バルト3国に続々と進出していった。また、そこで実際に、高い収益を挙げたのである。
バルト3国はロシアと欧州連合(EU)の金融面での懸け橋と位置付けられてきたが、実際には、ロシア人が関与する資金洗浄(マネーロンダリング)の温床となっていたのである。
スウェドバンクのビギット・ボネセンCEO(最高経営責任者)は4月28日、資金洗浄疑惑への対応で株主の信頼を失い解任された。4月5日には、同行のラーシュ・イダーマーク会長も退社した。その疑惑は、スウェーデン公共放送などが報じたもので、スウェドバンクがそのエストニア事業を通じて、非居住者(ロシア人)との間で、10年間にわたってリスクの高い資金、1,350億ユーロ分の取引に関与したことだ。この資金洗浄疑惑を巡り、米ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)も調査を開始している。
北欧の銀行システムの信頼性が揺らぐ
北欧の大手銀行が、エストニアを舞台にしたロシアマネーの資金洗浄疑惑に巻き込まれたのは、昨年発覚した、デンマークのダンスケ銀行の疑惑に続くものだ。ダンスケ銀行は、そのエストニア支店が2007年から2015年にかけて最大2,000億ユーロの資金洗浄にかかわっていた可能性を認める報告書を、2018年9月に公表した。それを踏まえて、エストニア金融監督局は、8か月以内に預金返還や他行への融資債権売却または移管を完了するようダンスケ銀行に通告した。その後、ダンスケ銀行は、エストニアだけでなくラトビア、リトアニア、ロシアでの事業も閉鎖すると決めた。この問題は、今回のスウェドバンクと同様に、ダンスケ銀行のCEOの交代をもたらしたのである。
また、米証券取引委員会(SEC)と米司法省が、ダンスケ銀行に対する調査を進める一方、スウェドバンクとフィンランドのノルデア銀行も、資金洗浄疑惑をめぐり北欧域内で刑事告訴されている。これら3行の疑惑は、欧州史上最大規模の資金洗浄事件に発展する可能性がある。
北欧の銀行による一連の資金洗浄疑惑は、透明性が高いとされてきた、北欧の銀行の信頼を大きく毀損している。バルト3国は以前より資金洗浄の温床とされてきたが、北欧の銀行がコストをかけて十分な資金洗浄対策を講じてこなかったつけが回ってきた形である。
また、その影響は銀行業界にとどまらず、政治情勢にも影響を与えている。デンマークでは、この資金洗浄疑惑を受けて、右派連立政権への批判が高まっている。同国では、今年6月までに総選挙が実施される予定だが、左派の野党勢力が政権を奪取する可能性も指摘されている。さらに、資金洗浄疑惑問題は、北欧各国の国家としての国際的な評価を傷つけるほどになっている。
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