対中追加関税第4弾を13日に公表へ
5月9日、10日にワシントンで開かれた米中の閣僚級貿易協議は、ほぼ進展のないまま終了した。この間に米国は、2,000億ドル分の中国からの輸入品に課している制裁関税率を、10%から25%に引き上げた。
良いニュースは、両国ともに協議を続ける考えを示していることだ。トランプ大統領は協議終了後に、この2日間の協議は「率直かつ建設的だった」とし、また、中国の習近平国家主席との個人的な関係は引き続き極めて強く、「将来に向けた協議は今後も続く」と述べた。他方、閣僚級協議にあたった中国劉鶴副首相は、交渉は決裂したとの見方を否定し、両国は交渉を継続することで合意しており、北京でさらなる話し合いを行うと説明している。
一方、悪いニュースは、トランプ大統領は、追加関税が問題解決に役立つ、米国の利益になる、と依然信じていることだ。10日には、「関税はわが国を弱くするのではなくより強くする」とし、関税は米経済にとって良いことだと主張している。
トランプ政権は10日に、中国からの輸入品の中で未だ追加関税の対象となっていない3,250億ドルにほぼ匹敵する規模の3,000億ドルについても、追加関税(いわゆる追加関税第4弾)を課す考えを正式に発表している。13日にその詳細案が公表される。第1弾、第2弾では対象品を選別したことで、消費財の割合は1%に抑えられ、また、第3弾では24%だった。他方、米ピーターソン国際経済研究所によると、第4弾ではIT製品や玩具など、消費財は全体の40%に達すると見込まれている。これが、実施されれば、堅調な米国個人消費に大きな逆風となりかねない。
6月米中首脳会談の合意を目指すか
トランプ政権は、今後数週間での米中合意を目指している模様だ。その間に合意が成立すれば、3,000億ドル規模の輸入品に対する追加関税を導入しないだけでなく、2,000億ドル分の輸入品に課す関税率の引き上げ分も撤回するだろう。中国から米国に船便が届くまでに数週間から1か月要するため、その間に関税率引き上げが撤回されれば、経済的な影響は限定的となる。
トランプ政権は、6月の米中首脳会談の合意を目指しているとも報じられている。6月の米中首脳会談とは、6月に大阪で開かれるG20サミットの場での会談を意味しているとみられるが、その場合、サミットの関心は米中貿易協議の行方に集中し、議長国である日本の存在感が薄れてしまう可能性もある。
今後の協議では、中国政府が米国側に追加で譲歩する余地はあるとみられるが、今回の閣僚級貿易協議でも改めて明らかになったのは、中国政府は、合意の際には、今まで米国が導入した対中追加関税を一気に撤廃することを強く望んでいることだ。これは、追加関税の経済的な打撃という実効的な側面よりも、メンツの側面によるところが強いのだろう。
体制の優劣を巡る米中間の争いは終わらない
協議を通じて中国政府が米国側に多くの譲歩をする一方、追加関税が撤廃されずに残れば、中国政府は譲歩し過ぎだとして、習近平国家主席に対する批判が中国国内で強まりかねない。
協議の落としどころは未だ見えていないが、中国が実を捨ててメンツをとり、米国が実を得て中国の顔を立てる形で、6月にも貿易協議の合意が成立する可能性は残されている。しかし、それでも両国間の不信感は強く残るだろう。
米国は合意の後も、中国が合意内容を履行しない可能性を疑い続け、中国は、合意内容を履行していないことなどを理由に、米国が一方的に合意を破棄する可能性を疑い続けるのではないか。6月に貿易協議の合意が成立しても、それが米中間の対立を解消させるものとはならないだろう。
両国間での対立の本質が、貿易不均衡問題にあるのではなく、経済、先端産業、軍事を巡る覇権争い、あるいは体制の優劣を巡る争いである限り、対立は非常に長期化することが避けられないはずだ。
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