日本銀行はFRBとは異なる道を歩む
6月19、20日に日本銀行は金融政策決定会合を開いたが、大方の予想通り、政策変更は発表されなかった。一部で予想されていたフォワードガイダンスの修正も見送られた。
リスク要因に関する記述では、「海外経済を巡る下振れリスクは大きいとみられ、わが国の企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要がある」と警戒色の強い表現は見られたものの、景気の基調判断は、現状及び先行きともに「緩やかな拡大」との表現が維持された。この点から、日本銀行が近い将来の追加緩和実施を視野に入れているようには見えない。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、追加緩和実施の可能性を強く示唆していることから、この点で、日本銀行はFRBとは別の道を歩んでいると言えるだろう。FRBと比べて日本銀行には追加緩和の手段、余地が圧倒的に限られることを踏まえれば、これは当然のことだ。
FRBは年内0.5%ポイントの政策金利引下げの可能性を示唆しているが、仮にそれが実施されても、日本銀行が追加緩和を実施する決定打とはならないだろう。
FRBは予防的措置として、景気悪化に先手を打って利下げを決める可能性を示唆している。それは金融市場で好感され、リスクオンモードが醸成されやすい。そのもとでは円高にはなりにくいことから、日本銀行は現状維持を続けることができるのではないか。
他方、米国及び世界経済の悪化がより明確となり、FRBが大幅な政策金利を引き下げるとの観測が広がる、またそれでも景気の悪化に歯止めが掛からないとの悲観的な見方が広がると、為替市場では円高・ドル安が急速に進みやすくなるだろう。そうした際には、日本銀行が追加緩和を実施する可能性がかなり高まるのではないか。
フォワードガイダンスの修正を活用
追加緩和をできるだけ温存したい日本銀行にとって、そこまでのつなぎ、時間稼ぎの施策として活用を検討しているのが、フォワードガイダンスの漸次的修正ではないか。
4月の決定会合で、日本銀行は、政策金利のフォワードガイダンスについて、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」との文言に、「少なくとも2020年春頃まで」という時間を明示する文言を加えた。これによって、「当分の間」という曖昧な時間軸をより明確化させたのである。
この時間を明示したフォワードガイダンスは、将来的には、正常化の局面で市場との対話を強化し、正常化を円滑に行う手段として使うことができる。
しかし、短期的には、一種の緩和措置として使うことができる。例えば、景気減速や円高が進む場合には、「少なくとも2020年春頃まで」という時間軸を、「少なくとも2020年後半頃まで」などに延長することで、イールドカーブのフラット化を促し、金融市場の景況感を支え、また円高をけん制することもできるだろう。
フォワードガイダンスの時間軸延長という手法は、日本銀行と同様に本格的な追加緩和策をできるだけ温存したい欧州中央銀行(ECB)が、既に採用している。将来的には、日本銀行とECBとが時間軸の延長を競うような状況になるかもしれない。
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