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世界の4人に1人は銀行口座を持っていない

世界銀行の調査によると、2017年時点で、世界で17億人の成人が銀行の口座(ネット銀行の口座を含む)を持っていない。彼らはアンバンクト(unbanked)と呼ばれている。それは、2018年の世界の総人口73億人の23%程度、4人に1人に達するのである。

銀行口座を持たないアンバンクトが集中しているのが新興国だ。そのうちほぼ半分は、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、メキシコ、ナイジェリア、パキスタンの7か国にいる計算となる。銀行口座を持っているかどうかは、その人の所得水準と関係があるが、同時に教育水準との関係も見られる。アンバンクトは、受けた教育の水準が相対的に低いという傾向がある。

このアンバンクトに銀行口座を持たない理由を問うと、大きく2つの答えが返ってくる。経済力の問題と信用力の問題だ。最も回答比率が高いのは、口座を使うには持っている金が少ない、というもので、それが回答全体の3分の2を占めている。それが唯一の理由だとする者は、全体の2割程度だ。銀行口座を持つことのコストや銀行が近くにないことを挙げる者もいる。また、既に家族が口座を持っているから必要ない、との回答もある。

他方、口座を開設するのに必要な書類が準備できない、信用力が低いため口座が開設できない、との回答がそれぞれ2割程度となっている。

携帯電話、インターネットで銀行サービスにアクセス

銀行口座を持たないアンバンクトでも、携帯電話(mobile phone)は持っているという人は世界に多い。その数はおよそ11億人と、アンバンクト人口の3分の2に達している。インドやメキシコではその比率は50%以上、中国では実に82%となっている。また性別でみるとその比率は男性が7割強、女性が6割強と、男性の比率が10%程度高くなっている。

ただし、携帯電話とインターネットへのアクセス手段の双方を持つ人は、世界のアンバンクトの中の25%程度に過ぎない。その比率は、ブラジルで60%、南アフリカで33%、中国で25%、バングラデシュ、ナイジェリア、パキスタンでは10%とばらつきが大きい。

ここでいうインターネットへのアクセス手段には、スマートフォン、自宅のパソコンに加えて、インターネットカフェ等も含まれる。現金の代わりにリブラなどのデジタル通貨で自由に買い物ができるような環境には、インターネットに接続するモバイル機器を持っていることが必要だが、そうした人は、アンバンクトの中でかなり低い比率ということになる。携帯電話とインターネットへのアクセス手段の双方を持つ人は、世界のアンバンクトの中の25%程度であるが、その中には、インターネットに接続しない携帯電話と他のインターネット接続手段を持つ人が含まれているためだ。

このように、アンバンクトの中で、リブラのようにスマートフォン上のアプリでデジタル決済が利用できる環境の人の割合は必ずしも高くはない。この点から、リブラで金融包摂を強く後押しする、というフェイスブックの説明はやや過大なのではないか。

リブラだけで金融包摂の問題が一気に解決できる訳ではないことは明らかだ。デジタル技術を通じて金融包摂を前進させるためには、通信環境も含め、スマートフォンをさらに新興国で普及させる必要もあるのだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。