先行きの金融政策に対する不確実性は高まる
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17、18日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を、1.75%~2.00%へと0.25%の引き下げを決めた。これは、事前に予想された通りの決定だった。
しかし、次回会合での追加的な金利引き下げを直接示唆するメッセ-ジはなく、また、FOMC内で金融政策を巡って意見が大きく分かれていることが改めて明らかになったことで、先行きの金融政策に対する不確実性は高まった。金融市場は、事前に予想していたよりもタカ派(緩和に慎重)な姿勢であると捉え、為替市場ではややドル高が進んだ。
FOMC内で意見が大きく分かれていることは、今回の政策決定を巡る採決の結果に端的に表れている。2人の地区連銀が金利据え置きを主張し、緩和措置に反対した。他方、1人の地区連銀総裁は逆に0.5%の大幅な金利引下げを主張し、やはり今回の措置に反対したのである。
また、FOMC参加者によるFF金利の見通しによれば、年内、追加で0.25%の金利引き下げ、現状据え置き、0.25%の金利引き上げ、と見方は大きく3つに分かれた状況である。
ただし、声明文で「景気回復を維持するために適切に対応する」との文言が維持されたことは、金融政策が引き続き緩和方向に傾いていることを示唆していると言えるだろう。
連続利下げは予防的措置との説明と矛盾
他方、予防的措置と位置付けながら、7月の緩和の効果を見極められない段階で、連続した利下げを実施したことは、説明と実際にとられた政策との間に矛盾も生じていることを意味しよう。トランプ大統領からの度重なる緩和要求に部分的に応えたことが、連続的な政策金利引下げの一因であろう。今後も、経済・金融情勢に大きな変化が見られない中で、予防的措置と位置付けながら、連続した利下げを続ければ、次第に説明は難しくなるだろう。
また、パウエル議長は今後の景気拡大の維持には「FF金利の緩やかな調整で対応しうる、またそうするべき」と説明している。これは、今後も連続した利下げが実施されるとは限らず、現在の経済、金融情勢に大きな変化が生じなければ、金融緩和のペースが低下する、あるいは、いったん様子見姿勢に転じる可能性を示唆したのではないか。
足もとでは、8月小売売上などの統計で個人消費の強さが改めて確認される一方、物価指標は予想以上に上振れている。この状況が続いた場合、10月の次回FOMCでは、追加緩和策の実施が見送られる可能性も考慮しておいた方が良いのではないか。
短期金融市場の混乱が保有資産再拡大の時期を早める可能性も
今回、FF金利の誘導目標が0.25%引き下げられたが、同時に超過準備に適用される付利金利(IOER)は0.30%引き下げられ、両者の差は拡大した。これは、足もとでFF金利、その他の短期金利が大幅に上昇したことへの対応であり、FF金利を誘導目標内に維持するための措置だ。
FF金利は、足もとで誘導目標を大きく超える局面が頻発していた。変更前の2.00~2.25%の誘導目標のもとで、3%を超える取引も見られた。また、通常はFF金利と近い動きをする、同じ銀行間取引の金利であるレポ金利は、一時10%を超えた。こうした短期金融市場のひっ迫を受けて、ニューヨーク連銀は、17日、18日に連続して大量の資金供給オペの実施を余儀なくされたのである。
こうした予想外の短期金融市場の混乱が、先行きの金融政策にも影響するとの見方も浮上している。予想外の資金ひっ迫の背景には、トランプ政権下で財政赤字が急速に拡大し、政府が短期の資金調達を急増させていることがある。他方、FRBが保有資産の縮小を続けてきたことで、銀行が中銀当座預金に持つ超過準備の水準、つまり余剰資金が低下し、資金調達が困難に陥りやすい環境になった、との指摘もある。その解消のために、早期に保有資産の再拡大を実施すべき、との意見がFRB内で浮上している可能性がある。
保有資産の再拡大は、政策金利の引き下げを相当に進めても、経済情勢が改善しない場合の次の一手、と位置づけられてきたと考えられるが、予想外の短期金融市場の混乱を受けて、その実施が前倒しされ、保有資産の再拡大と短期金利の引き下げが平行して進められる可能性も出てきたのではないか。
経済、金融環境に大きな変化がない場合、次回10月のFOMCでは、追加利下げが見送られる可能性がある。ただし、その場合、保有資産の再拡大の方針が併せて示され、市場の緩和期待を大きく裏切ることを避ける配慮がなされるかもしれない。
こうした可能性も踏まえ、年内に残る2回のFOMCでは、どちらか1回で0.25%の政策金利引下げが実施される、と現状では予想しておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。