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中国企業の上場廃止も検討

トランプ政権が米国から中国への投資の制限に関して、複数の選択肢を既に検討していることが報道で明らかにされた。トランプ政権による経済面での対中制限措置は、従来のモノやサービスから、いよいよ資金の分野にも広がってきたのである。

こうした措置は、米国市場を通じたグローバル資金の中国投資フローに大きな打撃を与えることになろう。さらに、市場主義と資本主義の盟主を標榜する米国が、自ら資本市場に制約を加えることが、米国市場の信頼性を低下させ、グローバルな資金フローを委縮させてしまうことにもつながりかねない。

米メディアによれば、トランプ政権が検討している中国への投資制限措置には、米国市場に上場する中国企業の上場廃止が含まれているという。それ以外に、株価指数に中国株を組み込むことを制限すること、政府系年金基金による中国への証券投資を制限すること等も検討されている。米国上場の中国企業は約160社に及ぶが、この報道を受け、アリババグループや百度(バイドゥ)など中国企業の株価が先週末に急落している。

こうした措置は、10月10日に再開される見通しである米中閣僚級協議に向けて、中国側から譲歩を引き出すための脅し、との見方もされている。しかし、実際にはそうした一時的な脅しにとどまらず、交渉での中国側の態度いかんに関わらず、部分的に規制措置が実施される可能性があるだろう。

米議会にも対中投資規制を求める動き

米議会では、対中強硬派の超党派議員から、公的年金による中国株投資をやめるよう求める声が出ており、今回のトランプ政権の対中投資制限の検討も、議会との協議の中で生じたものという面がある。米議会は今年6月に、米国に上場する中国企業に対し、米当局による監督受け入れを義務付ける法案を提出した。現状では中国の法律で監査資料の開示などが制限されているが、仮にこの法案が成立すれば、財務情報の開示が必要となり、要件を満たさない企業は上場廃止処分となる。

トランプ政権内では、対中強硬派であるピーター・ナバロ通商政策大統領補佐官、元大統領側近のスティーブ・バノン氏らが、この対中投資制限を強く主張している。他方、ムニューシン財務長官、クドロー経済諮問会議委員長ら穏健派は、金融市場への悪影響に配慮して慎重な姿勢であるという。

対中投資制限のニュースは、政権内の反対派がその実現を阻むためにリークしたとも言われている。トランプ政権の対中政策は、強硬派と穏健派との力関係で揺れ動くという従来からの基本的な構図に変化はない。

米財務省は、米国市場に上場する中国企業を上場廃止にする措置は、今のところ検討していないと説明した。しかし、他の措置については言及していない。最終的にはトランプ大統領が決めるとされているが、トランプ大統領自身は中国への投資制限の導入に前向きとも伝えられており、最終的に何らかの措置が実施される可能性は否定できないところとなってきた。こうした措置は、米中間の対立をより激化させ、貿易協議の合意をより遠ざけるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。