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離脱の動きはなお続く可能性

フェイスブックが主導する新デジタル通貨・リブラの発行計画に、逆風が強まっている。米国のインターネット決済大手のペイパルは10月4日、リブラを運営するリブラ協会への参加を見送ることを明らかにした。ペイパルはリブラ協会の創設メンバー28社のうちの1社だった。

この28社はリブラ協会への参加を表明したが、各社が署名した加盟意向書は、法的拘束力を持っていない(nonbinding letters of intent)。また、リブラ協会のメンバーになるのに必要な1,000万ドル以上の出資金の支払いも未だしていない状態だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は2日に、同じくリブラ協会の創設メンバーであるビザ、マスターなども参加を見合わせることを検討している、と報じていた。

10月14日には創設メンバーの代表がジュネーブに集まり、リブラ協会を監督する理事会メンバーの選出などを行う予定だという。この日程を前に、リブラ協会への正式参加を見合わせる動きがさらに出てくる可能性も考えられるところだ。

ペイパルがリブラ協会への参加を見送り、また他の創設メンバーの中でも参加見送りを検討する動きが出てきている背景には、欧米の規制当局や政府・議会関係者がリブラに対して強い警戒心を抱いていることがある。つまり、当局との関係を悪化させることを警戒して、参加を見送るのである。

リブラの発行時期は後ずれ

創設メンバーの離脱が、直ちにリブラ発行計画を頓挫に追い込む訳ではないが、発行時期を遅らせる要因にはなるかもしれない。

フェイスブックは当初、2020年前半の発行を計画していたが、このスケジュールは現実的ではなくなっているだろう。フェイスブックの子会社で、リブラの初期メンバーであるカリブラのビジネス開発ディレクター、キャサリン・ポーター氏は、「2020年中の導入を目指す」と、既に発行スケジュールを先送りしている。実際には、2020年中の発行も難しいかもしれない。

米議会では、フェイスブックに対して、リブラに関する証言を引き続き要求している。フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(最高執行責任者)は、リブラについて、米議会下院で証言することに合意した。しかし、下院金融サービス委員会は、ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)による証言を求めており、同氏が1月までに証言を行うことを約束しない限り、サンドバーグ氏を招いた公聴会を設定しない方針、と伝えられている。

創設メンバーの離脱の動きを食い止め、新規メンバーの参加を促すために、フェイスブックは当局に対して、今まで以上に丁寧な対応を求められるだろう。特に問題視されているマネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪への具体的な対応策をフェイスブックが示せるかが、当面の大きな注目点となる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。