米中貿易協議前に対中制裁措置発動
米中貿易協議を目前に控えたこの時期に、トランプ政権はウイグル族の弾圧を理由にした対中制裁措置を相次いで打ち出している。
トランプ政権は8日、中国政府が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒を弾圧していることへの制裁措置として、それに関係する中国当局者らの査証(ビザ)発給を制限すると発表した。ポンペオ国務長官は、「中国政府はウイグル族、カザフ族、キルギス族などイスラム教少数民族を組織的に激しく弾圧している。米国は中国に対し、新疆ウイグル自治区での弾圧を直ちにやめるよう求める」と発言した。
他方、米商務省は7日、監視カメラ世界最大手の中国企業ハイクビジョン等に、事実上の禁輸措置を課すと発表している。監視カメラが、中国政府による新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の監視に使用されていることを前提にした措置なのであろう。
英調査会社IHSマークイットのデータによると、米国には現在5,000万台の監視カメラがあるが、中国の監視カメラの台数はその3倍以上の1億7,600万台にも達しているという。中国政府は、監視カメラの映像を国民のID写真と照らし合わせて、犯罪者やテロリストの発見に役立てているようだ。
また、中国の交通警官のサングラスには、顔識別装置が内蔵されているとも言われている。顔のデータベース、街中に張り巡らされた監視カメラ、警官のサングラスによって、手配された被疑者が迅速に捕捉されるシステムが完成しているのだという。
新疆ウイグル自治区は社会統制の実験場か
米国が非難している新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒弾圧について、その実態は明らかではないが、以下では米国メディアが報じた内容を紹介したい。
2014年に、中国各地でテロ事件が続いた。中国政府はこれを、新疆ウイグル自治区に拠点を置く武装グループが、海外のイスラム過激派に刺激を受けて起こした犯行だとみて、その後、同地域での監視を著しく強化した。中央アジアに面する中国辺境地域、新疆ウイグル自治区の首府ウルムチは、地上で最も厳しい監視に一般市民が晒されている場所、とも言われており、あたかも、ハイテクを駆使した社会統制の実験場のようであるという。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の潜入取材によれば、ウルムチには、市街地やその周辺にある電車の駅や道路に、身元確認用スキャナーを備えた多数の警察の検問所がある。警察は携帯式機器を使い、スマートフォン上で暗号化したチャットアプリや政治的な告発対象となる動画、その他の疑わしいコンテンツがないかどうかも調べるという。
また、町中には無数の監視カメラがある。ホテルやショッピングモール、銀行などでは入り口を往来する人の顔を、スキャナーがチェックする。旅行者のみならず住民も、IDカードや顔、眼球、時には全身をスキャンする機械を通らなければならない。また、現地では、DNA採取システムも導入されているという。
米国は人権問題での対中攻撃に照準
今回のトランプ政権による対中制裁措置は、従来のように経済的な理由ではなく、人権問題を理由としている点が新しい。このことは、米中貿易戦争の本質は必ずしも両国間の貿易問題ではなく、政治・経済体制の優劣を巡る覇権争いであることを露呈したもの、と言えるのではないか。また、自治拡大を要求する香港でのデモが長期化する中、人権問題で中国を攻撃することで、国際世論の支持を得ようとする狙いもトランプ政権にはあるのかもしれない。
いずれにせよ、米中貿易戦争は終息に向かうというよりも、むしろ一層ステージが上がった感がある。自由と人権という普遍的な価値を共有する先進国の盟主を自認する米国は、今後も、少数民族や宗教への弾圧など、人権問題で中国に揺さぶりをかけてくるだろう。そうした動きは、香港のデモと共鳴し合ってさらにエスカレートしていくことも考えられるところだ。
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