&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

利下げ後に様子見に転じるとの見方

10月29、30日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)において、3回連続で0.25%の利下げ(政策金利引下げ)が実施される、との見方が多くなっている。

客観的な環境を踏まえると、今回利下げが実施されるのは確定的とは言えない状況だろう。利下げが決定された前回9月のFOMCでは、2人のメンバーが利下げに反対する投票を行う一方、参加者による先行きの政策金利(FF金利誘導目標)の見通しでも、年内の追加緩和を見込む向きは半数に満たなかった。

また、前回のFOMC以降に発表された各種経済指標の中には、9月ISM製造業指数、9月小売売上高など下振れしたものもあったが、追加緩和の引き金となるほどの決定的に弱い指標は見られなかった。さらにこの間、米国の株価は高値圏で比較的安定した推移を見せている。こうした中、今回のFOMCでは、追加緩和を巡って意見が大きく分かれると考えるのが自然だろう。

しかし、実際には金融市場では利下げを見込む向きが多い。さらに、3回連続で利下げを実施した後は様子見姿勢に転じる、あるいは利下げ打ち止めとの見通しが広く共有されている。これは、FOMC内部での議論を反映したとみられるメディア報道の影響が大きいのだろう。

このメディア報道の内容を尊重すれば、利下げの可能性が比較的高い、ということになる。FOMC内で利下げに慎重な向きには、次回以降は様子見姿勢に転じるとの見解をFOMCが示すという一種の交換条件で、今回の利下げには同意するように説得がなされているのかもしれない。

市場が「予防的措置」とみなすか否かが決定的に重要

実際に利下げがなされる場合には、今後は様子見姿勢に転じるとのニュアンスがにじみ出るような声明文が示される可能性があるが、実際の政策は今後の経済指標次第との説明もあわせてなされるだろう。そのため、利下げ打ち止め感は市場に大きくは広まりにくいのではないか。さらに、金融緩和策は「予防的措置」であることが、改めて強調されることだろう。

この「予防的措置」というのが、金融市場の安定維持の観点から、非常に重要なマジック・ワードとなる。「予防的措置」という説明は、現在の金融政策が景気悪化に対して遅れをとっている(ビハインド・ザ・カーブ)ことはなく、逆に先手を打っている(アヘッド・オブ・ザカーブ)ことを言っているのに等しい。金融市場は米連邦準備制度理事会(FRB)のこうした説明を今は信じているからこそ、弱い経済指標が発表されても、早めの金融緩和の効果で米国経済は先行き安定を維持できると楽観的に考える。その結果、株価は上昇し、また利下げを進めてもドル安が進まないのである。

しかし、今後、予想外に弱い経済指標が発表されれば、FRBの利下げが「予防的措置」との市場の見方は崩れ、より大幅な利下げ期待が強まるとともに、景気の先行きへの不安から株安とドル安が進行してしまうだろう。この場合には、日本銀行も追加緩和を強いられる可能性が高まる。

このように、FRBの利下げが「予防的措置」であるとの説明が説得力を維持できるか否かということが、グローバルな金融市場の動向や日本銀行の金融政策決定に非常に大きな影響を与える。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。