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格付けが低い企業向け融資を束ねて証券化したローン担保証券であるCLOに、世界の金融当局の目が注がれている。日本の金融機関が海外投資を拡大させる中、彼らが保有する海外CLOの残高は、世界全体の約15%を占めるに至っている。

金融庁と日本銀行は今秋、国内大手金融機関の財務の健全性を点検する観点から、CLOの実態調査を共同で実施している。

日本銀行は10月に公表した金融システムレポートの中で、大手金融機関が海外のCLOへの投資を積み上げていることを挙げ、価格下落リスクに警戒を促した。国内金融機関が保有する海外CLOの99%が最高格付けのトリプルA格であるため、「ストレス発生時の元本毀損や利払い停止といった信用リスク面での頑健性は相応に高い」と日本銀行は判断している。しかしながら、「市場価格下落などのリスクには留意が必要」だとしている。

こうしたCLOの価格下落リスクを改めて意識させる動きが、まさに足もとで生じている。米国のCLOの価格は、10月に-5%と大幅に下落したのである。これは、昨年末に匹敵する大幅な調整だ。

調整の背景には、融資先企業の中で、資金不足に陥るところが出てきたことがあると言われている。信用リスクが高いBB格のCLOの利回りは、10月月中平均で9.4%程度に達した。同利回りは今年1月に月中平均で10%近くに達したが、再びその水準に接近してきている。今年3月以来の利回り低下分を、一気に帳消しにした形だ。

ところが奇妙なことに、同様に企業の信用リスクを敏感に反映する代表的な指標であるハイ・イールド債のBB格の利回りは、10月に逆に下落している。今まではハイ・イールド債の利回りとCLOの利回りは、並行して動く傾向が見られてきた。近年のハイ・イールド債はエネルギー関連の銘柄が増え、その利回りは原油価格との連動性を強めているといった特殊性はある。しかし、10月は米国の株価も比較的安定していた点などを踏まえると、市場に反映される信用リスクが、この時期に総じて顕著に高まったとは考えにくい。

足もとでのCLOの利回り上昇は理屈では説明できないところでもあり、価格のボラティリティがにわかに高まった、との印象が持たれる。金融機関は、格付け選択によって信用リスクの管理はある程度できるとしても、合理的に形成される保証がない価格変動リスク全体の管理は簡単ではないだろう。

日本銀行が、「金融機関はCLOなどのリスクの精緻な把握と適切な管理を行っていく必要がある」と警鐘を鳴らすのも頷けるところだ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。