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リブラ計画との関連で憶測

米フェイスブック社は11月12日、新たな決済サービスである「フェイスブックペイ」を、米国内で始めると発表した。これは、フェイスブック社が主導して新たに発行を目指す、グローバル・デジタル通貨のリブラとは異なるものだ。

フェイスブック社は2015年に米国で対話アプリのメッセンジャーを用いた個人間の送金サービスを既に始めているが、フェイスブックペイはそれを拡大させていくプロジェクトと理解するのが妥当だろう。フェイスブック社は、SNSのフェイスブック、対話アプリのワッツアップ、メッセンジャー、写真共有アプリのインスタグラム、つまりフェイスブック関連アプリを横断する形で、この決済サービスを提供することを目指している。

フェイスブックペイは先週、米国内でフェイスブックとメッセンジャーで利用可能になったと見られる。今後は他のアプリでの利用を可能とする一方、米国以外にもサービス範囲を広げる予定だ。

フェイスブックペイについては、リブラ計画との関係で様々な憶測が生じている。リブラ計画が現在、金融当局らによって阻まれていることから、より実現が容易な手段で決済サービスの拡大を図る狙いがある、という見方がある。他方で、リブラの発行に向けた準備、予行練習との見方もある。

決済、金融サービスに活路を見出す

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるプラットフォーマーのうち、決済サービスで他者を大きくリードしているのはアップルであり、フェイスブック社は後れをとっている。他方、フェイスブックはコンテンツのチェック、管理、個人データ保護強化などを迫られ、コスト増加から先行きの収益性に不安が出ている。そのため、決済サービス、あるいはより広く金融サービス分野に新たに活路を見出す戦略とみられる。

ただし、フェイスブックペイについては、そうした狙いよりも、アプリの統合、ブランド統一の戦略の一環という要素の方が大きいのではないか。実際、フェイスブック社は、フェイスブック、メッセンジャー、ワッツアップ、インスタグラムをフェイスブックのブランドで統一する計画だ。その背景には、過去に買収したアプリの会社を分割することなどで、フェイスブックを解体し、その独占的な競争力を低下させることを検討している米司法省などへの対抗がある。

今後、フェイスブックペイを米国以外に拡大させる場合には、当該国の金融当局などとの間に様々な軋轢が生じる可能性もあるのではないか。それらが、リブラ計画を巡るフェイスブック社と金融当局との間の議論と結びつく形で、結局はフェイスブックペイとリブラ計画とが連動を始める可能性も否定できないところだ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。