大幅に減少する韓国訪日観光客によるインバウンド消費
日韓関係の悪化が続く中、それが日本経済に与える影響が一段と際立ってきた。韓国からの訪日観光客数は、10月に前年比-65.5%の大幅減少を記録した。今年7月以降、前年比での減少幅は拡大の一途を辿っている。2018年には、韓国からの訪日数は前年比5.6%増加していた。
2018年の韓国からの訪日観光客数は全体の24%を占め、国別には中国に次いで2番目であったが、9月以降は台湾を下回り3番目となっている。他方、韓国からの訪日観光客の一人当たり消費額は7万8千円と推計されている。仮に、10月の韓国からの訪日観光客数の下落率が年末まで続くとすれば、2019年の韓国からの訪日観光客による消費額、いわゆるインバウンド消費額は、2018年と比べて1,540億円減少する計算となる。これは2019年のGDPを直接的に0.03%押し下げる。
また、10月の韓国からの訪日観光客数の下落率が2020年も続くとして計算すると、2020年の韓国人訪日観光客のインバウンド消費額は、2018年と比べて4,365億円も減少する。それはGDPを直接的に0.08%、つまりおよそ0.1%押し下げる効果を持つ。波及効果も含めれば、その効果はさらに大きくなることから、日本経済にとって看過できない規模の悪影響と言えるだろう。
望まれる早期政治決着
日韓関係の悪化が日本経済にもたらす悪影響は、当然のことながら、韓国からの訪日観光客数の減少によるものだけではない。日本にとって韓国は、中国、米国に次ぐ第3番目の規模の輸出先だ。輸出全体に占める韓国向け輸出の比率は、2018年で7.1%である。最新10月時点で、韓国向け輸出額は前年同月比で-23.1%の大幅減少となっている。韓国経済悪化の影響がこの数字には含まれているが、日本の対韓国輸出管理強化措置の間接、直接的な影響や、日本製品のボイコットの影響も反映されている。仮に10月の下落率が1年間続くとすると、輸出減少規模は1.3兆円に達し、日本のGDPを0.2%押し下げる計算となる。
さらに、日本製品のボイコットの影響による日本企業の韓国事業への打撃も伝えられている。オンワードホールディングスは来年2月までに韓国市場から撤退することを決定した。売上高の約半分を韓国事業が占めるスポーツ用品大手デサントは、7~9月の韓国内の売上高が前年比で3割減となった。また、韓国の輸入ビール市場で首位を走ってきたアサヒグループHDも、販売不振にあえいでいる。
こうして日韓関係の悪化の影響が両国経済に広がる中、11月15日に経団連は、韓国の経済団体である全経連との定例懇談会を東京で開催した。中西経団連会長は、「日韓は緊密な関係を構築していて、特に経済の分野では欠くことのできないパートナーだ。政治的に厳しい状況にあるが、自由貿易を重視する点では日韓は同じ立場であり、いかなる環境でも対話をしっかり継続させることが大事だ」と発言した。一方全経連のホ・チャンス会長も、「懇談会が、日韓の未来志向的な関係をつくる突破口になればと思う」と述べている。
両国間の問題が長期化する中、日本の産業界からは、早期の政治決着を図るよう政府に求める声が日増しに強まっている。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。