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中国の競争政策が不十分との指摘も

筆者は中国広東省の広州市で開催されている国際金融コンファレンスに、23日から参加している。参加したあるセッションでは、中国の経済自由化政策、開放政策についての評価が議論されていた。海外から参加したパネリストらは、中国経済を牽引するのは民営企業であるとして、国有企業改革をさらに進めることを支持していた。他方で彼らは、市場開放政策、特に金融面での開放政策の進展を評価している。証券業界での外国企業の株式保有規制は現在51%まで引き上げられたが、来年には規制が完全撤廃される。

他方、オーストラリアから参加したあるパネリストは、中国政府の競争政策が不十分である点が問題、と指摘していた。政府が将来的に国有企業と民営企業との割合を、産業毎にどの程度にするのか、その方針が示されていない。その結果、先行きの不確実性の高さから、民営企業の投資活動が抑えられている面があるというのだ。こうした中で、海外企業への市場開放を急速に進めた場合、中国の民営企業にとっての将来の市場占有率などの見通しは、一段と不確実性が高まることになるだろう。

ところで、広州市の中心部から車で1時間弱程度の南方に、南沙自由貿易区がある。24日にはそこに視察に行ってきたが、広大な湿地帯の中に未だ整地されていない工業用地のようなものが広がっている。そこには、国際金融アイランドが建設される。海外からの金融機関を誘致して、一大国際金融センターを作る計画だという。

南沙を世界一の国際金融センターとする構想

さらに、広州・香港・マカオグレーターベイ経済構想があるのだという。巨大湾の入り口に位置するこの3つの大都市を一体的に発展させていく構想だ。この際に、南沙地区が地理的にこの3都市の中間点にあることから、ここを新たな再開発の拠点にするのだという。

南沙自由貿易区の開発計画を示す展示館のような施設を訪れたが、そこでは、南沙自由貿易区を良好な商業施設、居住施設を含めた一大拠点にするのだという。そこでは最新の交通システム、水道システム、医療システムなどを備えたスマートシティとなり、湾岸地域の美しい未来都市を作り上げる、という構想のビデオを視聴した。

驚いたことに、その新都市を2025年までに完成させるのだという。多くの建設途中の建物は見えるものの、現時点では未だ広大な湿地帯であるこの地に、あと5年で一大未来都市が完成するものだろうか。非常にチャレンジングな計画と感じたが、しかし一方で、驚くべきスピード感を持つ中国であれば可能なのかもしれない、とも思った。

ところで、広州・香港・マカオグレーターベイ経済構想について、香港、マカオはどの程度関与しているのか。南沙自由貿易区を世界最大の国際金融センターにする計画だと言うが、それでは香港と競合する存在となってしまう。中国政府は、国際金融センター香港をどのようにするつもりなのか、南沙国際金融センターとどのように棲み分けるのか。大きな疑問は残ったが、疑問は晴らされないまま戻ってきた。

25日には広州から鉄道で移動する。行き先は混迷を続けるこの香港である。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。