追加緩和の可能性は大きく低下
12月19日の金融政策決定会合で日本銀行は、大方の予想通りに金融政策の現状維持を決めた。7月と9月の会合の対外公表文では、それぞれ追加緩和の可能性を示唆する文言が加えられ、また前回10月の会合では、新たな政策金利のフォワードガイダンスの導入が決定された。
しかし今回は、半年ぶりに先行きの金融政策に関わる新たな表現や決定が含まれない、いわば自然体の対外公表文となった。これは日本銀行が、追加緩和の実施を余儀なくされる状況に追い込まれるとの警戒心を大きく低下させたことを意味していよう。
国内経済は製造業を中心に引き続き弱さが目立っているものの、非製造業の堅調を背景に経済全体としては安定を維持している。また、足もとの米国及び中国経済には改善の兆しも見られる。来年にかけて世界経済は、失速のリスクを徐々に低下させていく方向が展望できるようになった。
他方、日本銀行が追加緩和実施を余儀なくされる直接的なきっかけと考えられる円高進行は足もとでは見られず、心理的にクリティカルな水準である1ドル100円まではなお相応の距離がある。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)が共に12月の会合で追加緩和の見送りを決め、当面は政策を維持する見込みだ。
こうした環境のもとで、日本銀行が金融緩和措置を実施するとは到底考えられない。効果が無いだけでなく副作用が心配な追加緩和措置を、日本銀行自身としては、できれば実施したくないだろう。
現在の経済・金融環境に大きな変化がなければ、2020年も日本銀行は追加緩和を見送り、金融政策の現状維持を続ける可能性が高い。
円高が進まなかったことが今年最大のポジティブ・サプライズ
前回決定された、短期金利の引下げの可能性を示唆する新たな政策金利のフォワードガイダンスについては、今回の対外公表文では文章中で言及されるにとどまり、そのプレゼンスは大きく後退した感もある。
今年はFRBが金融緩和に転じ、政策金利を引き下げる中、それが為替市場で円高傾向を強め、日本でも追加緩和の実施を余儀なくされることを、日本銀行はかなりの程度覚悟していたことだろう。日本銀行にとって今年最大のポジティブ・サプライズは、FRBが3回、合計0.75%の政策金利引き下げを実施し、その分、日米の短期金利差が大きく縮小するなかで、円高ドル安が進まなかったことだ。こうしたもとで、日本銀行は追加緩和への警戒モードを今回解除したのである。
自身が予想していた政府の経済対策への評価は、対外公表文に盛り込まれなかったが(当コラム、「 政府・日銀の協調策と財政ファイナンスとの境は曖昧 」、2019年12月18日参照)、総裁記者会見でこの点がどのように説明されるかに引き続き注目しておきたい。
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