EUからの輸入車に追加関税を課す可能性
トランプ米大統領は、追加関税の導入を圧力にして貿易相手国に貿易協定の締結を迫るという二国間交渉のスタイルを続けてきた。自らをタリフマン(関税男)と称するトランプ米大統領は、その政策スタイルを今年も続ける。
トランプ大統領は、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」の議会可決、日米暫定貿易合意、米中貿易交渉の「第1段階」合意の署名などを自らの成果としてアピールしているが、タリフマンは早くも欧州連合(EU)を次のターゲットに据えている。
トランプ大統領1月21日、ダボス会議が開かれているスイスのダボスで、EUとの間の貿易協議が成立しない場合には、EUからの輸入車に25%の追加関税を課す考えを明らかにして、EU側に強い圧力をかけた。
昨年、通商拡大法232条に基づいて、輸入車の増加が米企業の競争力低下などを通じて安全保障上の脅威になると米商務省が報告し、トランプ大統領がそれを受け入れて追加関税を発動するかどうかの決定をする期限が昨年11月13日であった。しかしその期限が過ぎてもトランプ大統領は何の決定も説明もしてこなかった。EUとの貿易協議で圧力に使うために、そのカードをしっかりと温存してきたのだろう。
米国とEUの間には既に貿易面で軋轢
米国と欧州の間では、貿易分野で既に軋轢が生じている。フランス政府は、2018年末に大手IT企業に対して新たなデジタル課税を導入する方針を決めた。従来の法人課税の制度のもとでは、大手IT企業に対して適切な課税ができないことが背景にあった。長らくEUレベルで議論を重ねていたが、議論がまとまらないことに業を煮やしたフランスは、単独での導入を決めたのである。こうして2019年7月には、一定額以上の売り上げがあるIT大手から売上高の3%を徴税する新法が、フランスで成立した。
これに強く反発したトランプ政権とフランスとの間で、対立が強まっていった。トランプ氏は、デジタル課税が延期されない場合、仏産ワインなど24億ドル相当のフランス製品に、最大100%の関税を発動する構えを仏側に示していた。
1月22日には、フランスが2020年末までは米企業にデジタル課税は課さない一方、米国側が追加関税の導入を見送ることで、両政府間で合意が成立した。しかしフランス政府は、課税導入を撤回した訳ではないとしており、両国間での協議はなお続く。
他方でEUは、米中の「第1段階」合意を強く批判している。合意では、中国が米国産品の輸入を大幅拡大することを確約し、その具体的な水準についても受け入れた。これは、市場原理を歪める管理貿易だとEU側は米国を批判しているのである。
また、米国が昨年12月、世界貿易機関(WTO)判事の任命を拒否し、紛争処理の裁定機能が不全となっていることにも、EUは強い不満を抱いている。
日米貿易協議にも影響が及ぶか
米国とEUは2018年7月、ジャンクロード・ユンケル前欧州委員長とトランプ大統領の首脳会談後、貿易交渉の開始を発表した。だが、その交渉の枠組みにはEUの農産物関税は含まれておらず、その後1年半近く経つ現在でも、交渉はほとんど進展していない。
米国とEUの間で貿易協議が本格的に再開されれば、最大の焦点となるのは、この農産物関税の問題だろう。トランプ大統領は、11月の大統領選挙に向け、農家に政治的成果をアピールする観点から、EU側に農産物関税の大幅引き下げを要求するのではないか。しかしこの点では、EU側は譲歩する意志はない。その結果、米国がEUからの輸入車に25%の追加関税を課す方針を示す可能性が出てくる。その場合でもEU側は、米国からの輸入品に報復関税を課す構えを示すだろう。
このように、米国とEUの間で貿易協議が本格化すれば、両者間の対立はかなり強まる可能性が十分に考えられる。こうして、トランプ貿易戦争は、今年も続くのである。
また、米国とEUの間の貿易協議が難航し、EUからの輸入車に対する追加関税が議論の俎上に上ってくれば、日米間で先送りされている自動車分野の貿易協議が蒸し返される可能性があるのではないか。その際には、日本にも自動車追加関税適用のリスクが再び浮上することも考えられる。日本は、米国とEUの争いの流れ弾にも、十分に注意しておきたいものだ。
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