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SARS時より大幅な先行きの景況感下落

10日に内閣府が公表した1月分景気ウォッチャー調査は、新型肺炎が先行きの国内景気に与える悪影響について、日本企業がかなり深刻に受け止めていることを裏付けている。

景気の現状判断DI(季節調整値)は1月に41.9と、昨年12月の39.7を上回り、企業の景況感が消費増税の影響から脱してきていることが読み取れる。この時点では、新型肺炎が企業活動に与える悪影響は顕著には見られない。

ところが、景気の先行き判断DI(季節調整値)は41.8と、12月の45.5から3.7ポイントの大幅下落となった。ちなみに、SARSの広がりが企業の先行きの景況感を悪化させた2003年3月には、景気の先行き判断DI(季節調整値)は2.2ポイント下落したが、今回の下落幅はそれを上回っている。当時は、イラク戦争勃発の影響も加わって、この程度の下落幅であった。それから、中国人を中心に外国訪日観光客数が急増したことで、インバウンド需要の落ち込みの影響が、今回はより深刻に捉えられている。

北海道、沖縄、近畿で先行きの景況感は大きく悪化

また、1月の景気の先行き判断DI(季節調整値)を地域別に見ると、下落幅が最も大きかったのは、北海道の-10.0ポイント、2番目が沖縄の-7.6ポイント、3番目が近畿の-5.2ポイントとなっている。いずれも中国人を中心に、訪日観光客が多く訪れる地域である。

先行き判断について個別の報告を見ると、海外観光客の減少と国内旅行の減少の双方を心配する近畿地域の旅館や、新型肺炎の影響で観光関連の仕事が減少して求人が減ることを心配する沖縄の求人情報誌、さらに、マスクや手指消毒剤等の品不足で向こう2~3か月はそうした商品の需要が落ちることを心配する東北地域のドラッグストアの声などが寄せられている。

SARSの影響が、景気の先行き判断DI(季節調整値)の下落に表れた2003年3月の翌月の4月には、先行き判断DIは早くも上昇に転じ、3月の下落分以上に上昇した。景気の現状判断DIも4月に低下した後は、回復基調を辿ったのである。DIの顕著な落ち込みは、先行き、現状共にほぼ1か月で終わったのである。

日本経済への打撃やより深くより長く

それと比べて、今回は、新型肺炎の影響が2~3か月でなくなるとは思えない、とのコメントが南関東のホテルから寄せられるなど、概して企業は、より長期戦を覚悟しているように見える。

中国側の出国規制と日本側の入国規制がより厳しくとられている現状では、仮に感染者の拡大の勢いに早晩衰えが見られ始めるとしても、中国人訪日観光客数が元の水準に戻るまでにはかなりの時間を要するだろう。その間は、インバンド需要の落ち込みが、関連する消費関連業種に打撃を与え続けることになる。

SARSの時と比較しても、日本の経済活動への打撃はより深く、より長く続く可能性が高いことが、この景気ウォッチャー調査からも読み取れる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。