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3日に電話でG7財務相会議開催

先週末の2月28日に、米連邦準備制度理事会(FRB)が追加緩和を示唆する緊急声明を発表したのに続き、週明けの3月2日には、日本銀行が総裁談話を発表し、市場安定に努める意思を示した。同日にはまた、イングランド銀行(英国中銀)が「安定を守るため必要なすべての措置を講じる」との声明文を、欧州中央銀行(ECB)も「必要に応じて適切な対応をとる用意がある」との声明文をそれぞれ出している。

日欧の中央銀行は、米国の強い緊急声明を後追いすることで、国際協調を演出し、それを通じて市場安定化効果を高めようとしているのではないか。ただし、現時点ではFRB以外の主要中央銀行には、金融緩和策を即座に実施する意図はないだろう。

他方、フランスのルメール経済・財政相は同日、新型コロナウイルスの拡大への協調した対応を議論するため、G7(主要7か国)財務相が週内に電話会議を開くことを明らかにした。ルメール経済・財政相は、ムニューシン財務長官と3月1日に既に話したとしたうえで、会議を開くことにとどまらず、「協調行動があるだろう」としている。その後の報道では、3月3日に電話会議が開かれるという。

さらに、ルメール経済・財政相は、2日あるいは3日にラガルドECB総裁と会談する考えを明らかにした。その上で、「中銀は独立しているが、中銀であろうと政府であろうと、経済と企業を支える役割を果たさなければならないというのは自明だ」とも語っている。

G7協調策は財政による景気対策か

今回の電話会議はG7財務相らによるものであるから、会議の結果、G7の主要中央銀行が協調利下げ(政策金利の引下げ)に踏み切る、という展開にはならないはずだ。

金融市場の安定という観点から各国の財務相が協調して実施できるのは、為替介入である。しかし、株式市場の動揺に比較すると、主要国での為替市場の変動は今のところそれほど大きくはない。また、足もとではドル安傾向が見られることから、仮に為替協調介入を実施するのであればドル買い介入となるだろうが、トランプ大統領は貿易赤字削減のためにドル安を強く志向しているなか、そうした協調策で各国が合意できるとは到底思えない。

そこで、G7財務相が合意できる協調策とは、財政による景気対策ということになるのではないか。既に各国では景気対策を含む新型コロナウイルス対策が実施されている。新型コロナウイルスの急速な拡大が見られるイタリアでは、36億ユーロの巨額な景気対策の実施が決まった。日本でも、新型コロナウイルス対策の第1弾が2月に発表されたが、この中には被害の大きい観光業支援などが含まれた。さらに、第2弾の準備も政府によって進められている。新型コロナウイルス対策ではないが、事業総額26兆円の巨額経済対策が、2019年度補正予算に加えて、間もなく成立する2020年度予算の中に組み込まれる。

協調緩和は主要中銀間での枠組みで

G7財務相による電話会議の後には、このように各国でそれぞれ進められている新型コロナウイルス対策と経済対策を歓迎し、必要に応じて追加措置をとる、といった文言を含む声明文が出されるのではないか。

また、G7の主要中央銀行に了解をとったうえで、声明文には、中央銀行が金融市場の安定に必要な措置を講じる、といった文言が加わる可能性はあるだろう。しかしながら、それらは各中央銀行に、追加緩和を強いるものではない。その意味で、金融市場は、G7財務相による協調策に、現時点では過度に期待すべきではないだろう。

日本や欧州の主要中央銀行は、金融緩和の余地は基本的にはなく、金融緩和を通じて経済面から新型コロナウイルス対策を行うことは無理、と考えているだろう。そのため、財政面からの対応を基本的には歓迎するのだろう。

仮にこの先、中央銀行が協調金融緩和などの措置を講じる際には、このG7の枠組みではないはずだ。仮に政府が入るこのG7の枠組みのもとで協調緩和を実施すれば、中央銀行の政府からの独立性が問われることになってしまう。そのため、中央銀行の協調金融緩和は、あくまでも中央銀行間での協調策として検討、実施されるはずだ。

主要中央銀行の協調金融緩和が実施される可能性が今後あるとすれば、それは新型コロナウイルスによる景気悪化への対応ではなく、金融市場混乱への対応となるだろう。ただし現状では、主要中央銀行の協調金融緩和が実施されるような金融市場の状況には、まだかなりの距離がある。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。