新型コロナウイルスは現政権に逆風
米国でも拡大を続けている新型コロナウイルス問題は、米大統領選挙戦にどのような影響を与えるだろうか。
湾岸戦争、イラク戦争など過去の戦争の際には、現職の大統領の支持率は大きく上昇したが、戦争とは異なるタイプの今回の非常事態では、現職のトランプ大統領に対する国民の支持が高まったようには見えない。
逆に、新型コロナウイルスの拡大が見られた国では、概ね現政権に対する支持率は低下しているように見える。台湾は唯一とも言える例外の国なのではないか。新型コロナウイルスの拡大によって生じる先行きの経済への不安、生活の不自由さなどは、現政権への批判を生みやすいのだろう。
トランプ政権は、米企業が部品の調達先、並びに輸出先として中国経済に依存している米国経済の体質を変えようとしてきた。新型コロナウイルス問題で中国での生産が滞ったことをきっかけに、米企業の間でも中国での生産、中国からの部品・材料の調達を見直し、それらを分散化する動きが見られる。こうした流れは、トランプ政権の対中貿易政策が正しかったことを裏づけるとして、評価する向きはあるだろう。
他方でトランプ政権は、疾病流行の脅威を監視する国家安全保障会議(NSC)スタッフの取り組みを後退させ、米疾病対策センター(CDC)の予算削減を提案してきた。このことは、いわば政治的な失点となり得る。
米国でも新型コロナウイルス対策
政治的な失点を挽回することも視野に入れ、多くの国では、政府が積極的な新型コロナウイルス対策を講じている。10日には、日本で緊急対策第2弾が発表された。
トランプ政権も、景気刺激策に慎重であった従来の姿勢を転じている。トランプ大統領は9日に、打撃を受けた産業への大規模救済策と給与税減税を目指すとした。10日にはトランプ政権と議会共和党が協議し、トランプ大統領が記者会見で対策の一部を発表する。ただし、議会は12日から1週間の休会に入るため、それまでに法案をまとめるのは困難な情勢だ。
こうした積極対策は、一定程度の評価を米国民から得るだろうが、評価を決めるのはやはり結果だ。新型コロナウイルスの封じ込めに手間取っている間に、米国経済が明確に悪化し、また株価が調整を続ければ、それはトランプ政権に対する支持率を大きく低下させるだろう。
民主党大統領候補者選びに与える影響はどうだろうか。新型コロナウイルス問題は、サンダース候補に対してバイデン候補に有利に働くとの見方がある。副大統領経験者のバイデン候補の方が、危機の際には安定的な政治手腕を発揮する、との考えである。
大統領選挙戦のスタイルも変える
ところで、新型コロナウイルスの問題は、大統領選挙戦のスタイルにも既に影響を与えている。従来の選挙戦では、大統領候補者が選挙集会に参加し、また支持者と握手をするなど、他人と接触する機会が多かった。
しかし、選挙集会などで感染者が発生すれば、大統領候補者への批判にもつながりかねない。さらに、共和党と民主党の最有力候補3人は、いずれも重症化のリスクが高い高齢者層の70代であり、自らが感染すれば、選挙戦に大きな障害となりかねない。
そこで、選挙集会など一部のイベントはすでにキャンセル、あるいは延期が決まっている。トランプ大統領は2020年に入ってから11回にわたり集会を開催し、2週間以上の空白期間を空けることはなかったが、今の時点では新たな集会の予定は入れていないという。
新型コロナウイルスの影響で、こうした盛り上がりに欠く選挙戦となった場合、果たしてどの候補に有利に働くのかは不明だ。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。