政府は対策本部を前倒しで設置
政府は、本日中に改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく対策本部を設置し、初会合を行なう。同本部の設置は、緊急事態宣言を出すために必要な手続きとして同法に定められている。
今後は、有識者会議の下の「基本的対処方針等諮問委員会」で、国内の感染状況が緊急事態宣言の要件に該当するかどうかを検討することになる。それを踏まえて、首相が(1)国民の生命や健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある(2)全国的かつ急速なまん延により国民生活と経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある、の2要件を満たしたと判断すれば、緊急事態制限を発令することができる。
対策本部の設置は、当初27日に予定されていたが、25日の東京都での新型コロナウイルスの感染者数急増と同日の小池東京都知事による外出自粛要請を受けて、前倒しとなった。
発令の鍵を握るのは東京の感染者数
西村担当相は、緊急事態宣言の発令は「今の時点で考えていない」としているが、いつでも発令できる環境を政府が整えていることから、発令時期は近付いていると考えるべきではないか。緊急事態宣言が発令されれば、首相が対象地域を指定し、該当する都道府県知事が国民、企業に対して、外出自粛など様々な要請をすることができる。
おそらく発令のタイミングを決めるのは、今後の東京都の感染者数の動向ではないか。足もとでの急増傾向が続けば、今週末にも緊急事態宣言が発令される可能性はあるだろう。その場合、対象となるのは東京都など都市部だろう。そして、緊急事態宣言の発令を受けた都知事のより強い外出自粛要請こそが、小池都知事が念頭に置いている「ロックダウン(都市封鎖)」なのではないか。緊急事態宣言という法定根拠が加われば、その実効性はかなり高まることになるだろう。
経済への影響と私権制限には最新の配慮が必要
但し、東京都を中心に都市部で強い外出自粛要請が出される場合には、経済活動に甚大な悪影響を与えることは必至である(当コラム、「 首都東京ロックダウン(都市封鎖)が経済に与える打撃 」2020年3月26日)。また、緊急事態宣言は私権の強い制限に繋がる点にも十分な配慮が必要である。
緊急事態宣言が発令されれば、都道府県知事が住民に外出自粛、学校の休校、イベント自粛などを要請できる。さらに食料品・衣料品の売り渡し、運送業への物品輸送、医療目的での土地・施設利用を強制することも可能となるのである。
この点から、緊急事態宣言は、日本国憲法21条に規定される、集会の自由・結社の自由・表現の自由、といった、国民の基本的な自由の権利を侵害してしまう恐れがあると言える。緊急事態宣言の発令は、非常事態下での一時的な措置に厳格に限られることが必要だ。改正法5条には「必要最小限のものでなければならない」と定められてはいるが、これでは過度な私権制限リスクの排除には十分でないだろう(当コラム、「 緊急事態宣言は出されるか 」2020年3月17日)。
こうした点から、政府は緊急事態宣言の発令には慎重な姿勢が求められる。また発令を決める際には、有識者会議の判断を開示し、それに基づいて政府が発令を決めた根拠を、国会と全ての人が十分に納得できるよう、しっかりと説明しなければならない。
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