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新興国のドル建て国債にデフォルトのリスク

新型コロナウイルス問題は、長引く低金利下で累積された金融市場のひずみ、いわゆるバブルを突き崩すトリガーとなっている。最もリスクの高い金融商品は、欧米市場での信用力の低い社債と証券化商品などであり、そうした市場の機能を維持するために、中央銀行の危機対応は今後も続けられるだろう。

それに加えて、投資家のサーチ・フォー・イールド(利回り追及)行動が過熱する中で大いに買われてきたのが、新興国市場の株式や債券である。以下では、幾つかの新興国で、ドル建てで発行した国債の価格が暴落し、デフォルト(債務返済不能)が生じつつある状況を見てみよう。

2019年には、ドル建て国債を通じた新興国の資金調達は1,226億ドルに達した。リーマン・ショック時の2009年の633億ドルから10年間で2倍近くまで増加したのである。それを強く後押ししたのは、超低金利環境だった。

2025年11月に満期が来るアンゴラのドル建て国債の利回りは、3月初めには米財務省証券利回りとの格差(スプレッド)が7%であったが、先週末には30%にまで拡大した。また、2022年6月に満期を迎えるナイジェリアのドル建て国債の利回り格差(スプレッド)は、同じ時期に4%から12%に拡大した。スプレッドがもっと開いた国もある。ザンビアでは足もとで44%、エクアドルでは61%、レバノンでは実に99%である。

ドル高もデフォルト・リスクを高める

利回り格差が10%を超えると、デフォルトのリスクが相応にあることを示すとされ、現時点では18か国のドル建て国債がこれに相当している。

こうした国でドル建て国債の価格が急落(利回りが急上昇)したのは、従来買われ過ぎた反動という側面があるが、そのきっかけとなったのは、明らかに新型コロナウイルス問題である。各国では、新型コロナウイルス対策で医療費支出が増加し、また景気対策にも財政資金が回されている。さらに、こうした厳しい経済・財政環境の下で、ドル建て国債の利払いや償還に財政資金を使うことに、国民が強く反発する可能性が出てきている。このような政治情勢も、市場でデフォルトのリスクをより意識させているのである。

原油価格の下落は、産油国の経済・財政環境を悪化させ、また、金融市場の混乱をきっかけとするドル需要の高まりを映したドル高傾向は、自国通貨建てでの債務残高、利払い費を膨らませている。

経済の悪化に直面するアフリカの財務相のグループは、国・公共部門の債務に対する2020年の利払い440億ドルを放棄する方針を打ち出した。これを受けて国際通貨基金(IMF)や世界銀行は、ザンビア、ナイジェリア、ガーナなど最貧国の債権者に対して、利払いの猶予を認めるように呼び掛けている。

この先、新型コロナウイルスが、南米やアフリカなどの最貧国に本格的に広まっていった場合には、そうした国の経済及び財政環境は著しく悪化し、対外債務のデフォルトが相次ぐ事態が起こっても不思議ではないだろう。新興国の対外債務は、新型コロナウイルスがあぶり出した、金融市場の最弱ポイントの一つである。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。