FRBが2.3兆ドルの資金供給スキームを発表
米連邦準備制度理事会(FRB)は4月9日に、米議会が先月可決した大型経済対策に基づき、特別目的事業体(SPV)を仲介とする、2.3兆ドルの資金供給スキームの具体策を公表した。
SPVが企業や地方自治体向けに融資を行い、また証券を買入れるが、それはFRBがSPVに対して行う融資を原資とすることから、FRBが融資の焦げ付きや、取得証券の価格下落に伴うリスクを負うことになる。SPVに対して米財務省が4,540億ドルの出資を行うため、その金額までの損失は財務省が請け負うが、損失規模がそれを上回ればFRBのバランスシートが毀損される。この枠組みでは、最大で4兆ドル程度まで資金供給額を拡大させることが想定されているという。
経済対策パッケージには、従業員1万人以下の中小企業に最大6,000億ドルの融資を行うスキームが含まれた。中小企業向け貸付は民間銀行によって行われるが、その貸付債権の95%はSPVが買い取ることから、実質的にはFRBが融資を行うのと等しい。
また、失業給付への歳出増や税収減に見舞われている地方政府を支援するため、この枠組みの下で、最大5,000億ドルの地方債をSPVが購入する。
FRBが既に3月23日に導入した社債や自動車ローンや中小企業向け融資をまとめて証券化した証券化商品、「資産担保証券(ABS)」の買入れでは、資金供給枠が新たに、最大8,500億ドルまで拡大された。
ハイイールド債の一部も買入れ対象に
従来、FRBがSPVを介して買入れる対象としていたのは、格付けがトリプルB格までの投資適格社債であった。この措置を受けて投資適格社債の市場は安定を取り戻す一方、投機的格付け社債、いわゆるハイイールド債(ジャンク債)市場は混乱が続いていた。そこで今回、投機的格付けの最上位であるダブルB格まで、新たに買入れ対象に加えたのである。ハイイールド債の発行を通じた企業の資金調達を助けるとともに、ハイイールド債を保有する金融機関の破綻を回避する狙いがあるだろう。この措置を受けて、ハイイールド債市場では、歴史的な価格上昇が生じたのである。
米国経済の悪化への対応、そして、金融危機回避のため、SPVを仲介するFRBの資金供給の枠組みは、その規模と対象をさらに拡大していくだろう。よりリスクの高い社債や証券化商品が、今後、順次対象に加えられていくのではないか。
FRBの財務の健全性が損なわれれば金融市場は再び大きく混乱も
本来、FRBが買入れることができるのは、安全性の極めて高い財務省証券(国債)と政府系金融機関が保証する証券だけである。また、FRBの貸出先は金融機関に限られる。FRBの債務にあたる通貨ドルの信認・価値の安定性を維持するためには、FRBの財務の健全性は極めて重要であり、融資の焦げ付きや保有証券の価格下落のリスクはできるだけ小さくする必要がある。
今回の枠組みは、いわばルールの抜け道を作って、FRBにより大きなリスクを負わせるものだ。しかし、FRBによる資金供給はいわゆる「打ち出の小槌」ではなく、限界は必ずある。
現在のところ、SPVの貸出資産や保有証券の価値が2割程度まで目減りしても、財務省の出資金で賄うことができる。しかし、この先もSPVの資産が拡大を続ければ、財務省の出資金では十分ではなくなる可能性が生じよう。その場合、FRBのバランスシートが毀損される事態に発展する、との観測が高まり、その結果、ドルの信認にも悪影響が及ぶ可能性がある。その際には、悪い金利の上昇やドル安が生じ得るだろう。
FRB頼みが行き過ぎれば、こうした金融市場の動揺が生じ、それが経済危機、金融危機のリスクを再び高めてしまうのである。
現在の強いドル需要が一巡するもとで、仮にこうした事態が生じれば、ドルの価値が大幅に低下する可能性がある。その場合、急速な円高進行が、日本経済に大きな打撃を与え、またドル建て資産を多く保有する日本の金融機関にも大きな損失をもたらすことになるだろう。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。