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世界の2020年成長率見通しは-3.0%

4月14日に国際通貨基金(IMF)は、最新の世界経済見通しを公表した。事前にある程度予想されていたことではあるが、2020年の世界の成長率見通しは、-3.0%と大幅なマイナスとなった。リーマン・ショック後の2009年の世界の成長率はIMFによれば-0.1%であったことから、今回はそれを大幅に上回るマイナス成長の予想であり、大恐慌以来最も深刻な世界経済の落ち込みになると言える。

IMFは、経済見通しには大きな不確実性が存在しており、「もっと低い成長率となる可能性がある、多分、そうなる可能性が高いとも言える」と指摘している。この点から、IMFは、今の時点ではやや控えめのマイナス幅での成長率見通しを示しているのではないか。今後、成長率見通しがさらに下方修正される可能性は十分にあるはずだ。

他方、日本の2020年の成長率見通しは-5.2%とされた。リーマン・ショック(グローバル金融危機)時の2009年の成長率―5.4%とほぼ同水準である。先進国・地域の成長率はー6.1%であることから、日本の成長率のマイナス幅は、先進国・地域の平均よりも小さめだ。これは、欧米諸国と比べて、日本でとられている外出規制などの措置が緩いことを反映しているのだろう。しかし、日本においても、今後、感染拡大が続く中で、欧米諸国並みの規制措置がとられる可能性はあり、その場合には、両者の成長率見通しの差はなくなっていくだろう。

IMFが示した3つのリスクシナリオ

今回の世界経済見通しを作成するにあたり、IMFは、疫学、公衆衛生、感染症の専門家と多く議論を重ねたという。その成果がこの経済見通しに反映されている。しかし、先行きの経済見通しをほぼ決める、新型コロナウイルスの感染の動向、治療薬やワクチンの開発の時期については、誰も正確に予測することはできない。このように、非経済的な要因が経済見通しに大きな影響を与える局面では、見通しを幾つかのシナリオに分けて示すのが予測機関の常とう手段である。

既に示した成長率見通しが、ベース(標準)シナリオに基づくものだが、それ以外に3つのリスクシナリオが示されている。第1のリスクシナリオは、2020年中に各国は感染拡大(outbreak)を抑制できるが、それに要する時間が、ベースシナリオの1.5倍となる場合だ。第2のリスクシナリオは、ベースシナリオと同様に2020年中に各国は感染拡大を一度抑制できるが、2021年に再び感染拡大が生じてしまう場合だ。拡大の程度は、2020年の75%程度とされる。第3のリスクシナリオは、第1と第2が同時に生じるというものだ。2020年中の感染拡大(outbreak)を抑制に要する時間が長くなる上、2021年に再度感染拡大が生じてしまう場合だ。

リスクシナリオが早期にベースシナリオとなる可能性

第1のリスクシナリオの場合には、2020年の世界経済の成長率は、ベースシナリオよりも3%程度下振れる。つまり、-6%程度となる。第2のリスクシナリオの場合には、2021年の成長率は、+5.8%とされるベースケース・シナリオよりも5%程度下振れる。つまり、ゼロ成長に近付くのである。

そして、第3のリスクシナリオの場合には、2021年の成長率はベースシナリオよりも7%程度下振れる。この場合、2年連続のマイナス成長となる。

今後、感染拡大抑制のタイミング、強い外出規制措置の解除などのタイミングが後ずれしていけば、向こう1~2か月など比較的早期にも、第1のリスクシナリオが、ベースシナリオとなるだろう。IMFも、既にこの第1のリスクシナリオが、ベースシナリオに近いものとみなしている可能性も考えられる。

新興国支援に向けた国際協調の重要性

世界経済見通しのレポートの中でIMFが強調しているのは、医療システムの維持・拡充だ。医療への支出を増加させることが重要であるとし、医療従事者の家族への教育扶助や遺族給付の充実など、感染症との戦いの最前線に立つ医療従事者への特別報酬も検討すべきだ、と主張している。こうした政策は、主要国の中でも、特に日本で遅れている点ではないか。

さらにIMFは、新興国のリスクを強調しているが、それも妥当な指摘だ。先進国は新型コロナウイルス問題が生じさせる危機を乗り越えるのに比較的恵まれた立場にあるが、医療、経済、金融システムが脆弱な新興国は、自分の力では容易に乗り越えられない。新興国で新型コロナウイルス問題が悪化すれば、それは主要国の経済、金融市場の安定も揺るがすことになるだろう。結局、新型コロナウイルス対策は、主要国が自国でのみ進めるだけでは十分でない。

主要国間での協調とともに、脆弱な新興国を強力に支援していかねば、世界の新型コロナウイルス問題は解決しないのである。完全解決の時期は少なくとも2021年までずれ込むだろう。2022年となるかもしれない。

新型コロナウイルスという世界共通の敵と立ち向かうため、各国は従来以上に国際協調の強化を求められる。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。