トランプ大統領が経済活動再開の指針を発表
G7(主要7か国)首脳は、日本時間の16日夜に開いたテレビ会議で、新型コロナウイルス問題の鎮静化を受けた経済活動再開に向けた準備が重要、との認識で一致した。はからずも、同日は日本政府が緊急事態宣言の対象区域を全国へと拡大し、経済活動への制限を強化した日と重なった。日本の新型コロナウイルス対策のステージが他の主要国と大きくずれていることを改めて印象付けることとなった。
ドイツは15日に店舗休業の緩和を発表した。20日からは面積が800平方メートル以下の中小店舗の営業を認める。他方、3人以上で集まることの禁止措置や外出制限については、19日の期限を5月3日まで延長することを決めている。ベルギーでも、緩和措置が発表されている。
これに対して欧州委員会は、感染が再び急拡大しないようにするため、経済活動の再開は慎重に判断するよう、EU(欧州連合)加盟国に呼び掛けている。また、各国で足並みを揃えることの重要性を強調している。
こうした中、16日にトランプ大統領は、州政府に向けて、段階的な経済活動の再開の指針(GUIDELINES OPENING UP AMERICA AGAIN)を打ち出した。これは、他国での経済活動の再開にとっても指針となるのではないか。また、これを受けて、米国株式市場では、経済活動の再開への期待から楽観論が強まっている。
最終判断は州知事に委ねられる
この指針では、新型コロナウイルスの感染や疾病の症例数が2週間にわたり「下向きの軌道(downward trajectory)」を示した場合、経済活動を段階的に正常化することを推奨している。
第1段階は、「厳格な社会的距離」を置く措置がとられるもとで、飲食店、映画館、スポーツセンターを再開する。テレワークの推奨は続くが、職場復帰も認められる。このもとで、2週間の症例減少が確認された場合、第2段階に進むことができる。
第2段階では、学校、保育園、バーが再開される。不要不急の旅行も認める。第3段階では、社会的距離のもとで、ほぼすべての経済活動の再開が認められる。
トランプ大統領は経済活動の再開に前向きであり、できれば5月からそれを実施したいと考えていた。経済活動の回復を主導することで、11月の大統領選挙戦を有利にしたい、という思いがあるのだろう。
しかし、新型コロナウイルス対策としての規制措置の実施やその解除を決定する権限は、州知事にある。トランプ大統領は当初、経済活動の再開を各州に命じる権限が自身にあると主張していたが、それは憲法上の権限を逸脱しているとの強い批判を州知事らから浴び、主張を後退させた。今回の指針は、州知事に対する指示・命令ではない。最終判断は各州知事に委ねられる。
拙速な経済活動の再開は結局経済にマイナス
トランプ大統領は、4月中にも第1段階に進むことを州が出てくると説明したが、それは不透明だ。各州の判断に大きな影響力を持つクオモ・ニューヨーク州知事は、経済活動の再開はかなり時間をかけて行う、という慎重姿勢をアピールしており、他の州知事もそうした姿勢となる可能性が高いのではないか。
医療専門家の間では、拙速な経済活動の再開は、感染拡大の第2派を招くとして、慎重意見は依然として多い。4月14日に国際通貨基金(IMF)が発表した最新の世界経済見通しでは、2020年の世界の成長率は-3.0%とマイナスに陥るが、2021年には+5.8%とプラス成長に復することを標準シナリオとしている。しかし、感染封じ込めにより手間取り、さらに2021年に感染者数が再拡大する場合には、2021年の成長率は-1.5%まで下振れ、マイナス成長が2年続くというリスクシナリオも示されている。
経済活動を重視して、拙速に経済活動の再開がなされる場合、感染の再拡大を招いて、結局は経済活動への悪影響を強めてしまう、あるいは長期化してしまうリスクがあることに注意が必要だ。
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