手形や小切手の不渡り処分を当面猶予する特別措置
金融庁と日本銀行は4月16日、手形や小切手の決済期日を猶予するように、全国の金融機関に要請した。これを受けて全国銀行協会は17日、新型コロナウイルス問題による打撃で資金繰りに苦しむ企業に対して、手形や小切手の不渡り処分を当面猶予する特別措置を始めた、と発表した。
企業が発行する手形と小切手は、その受け取り先に支払いを約束する証書だ。受け取り先は、小切手については受け取り直後に現金化できるのに対して、手形については、記載された期日後でなければ現金化することはできない(割引する場合などを除く)という違いがある。
手形を発行した企業は、支払期日までに十分な資金を口座に振り込んでおき、決済できるようにしておく。しかし、期日までに十分な資金を口座に振り込むことができない場合には、債務不履行となり、その手形は「不渡り」となるのである。
不渡りを出してもその企業が倒産する訳ではないが、取引先や銀行からの信用を大きく失ってしまうことになる。それがいずれ、企業の倒産につながることもあるだろう。
6か月以内に2回の不渡りで事実上の倒産に
不渡りが発生すると、決済に使われた口座がある銀行は、不渡りの事実を知ることになる。その際に、その銀行は手形交換所に不渡届を出し、手形交換所は不渡報告を掲載し、全国銀行協会に通知する。その結果、手形の不渡りは、ほぼ全国の銀行に知られ、手形を発行する企業はすべての銀行から強く警戒されることになってしまう。その結果、銀行から新規融資を得ることがかなり難しくなるのである。
さらに、6か月以内に2回の不渡りを出すと、その企業は事実上、倒産するとされる。2回の不渡りが即座に企業を倒産させる訳ではないが、その企業は、手形交換所から当座取引停止処分を受けることになる。その後2年間にわたり、当座預金による取引ができなくなるのである。
さらにこの当座取引停止の事実が、やはり全国の銀行に知らされる。こうなれば、当該企業が破綻するリスクは実際に高まることになる。
支払い猶予は相手先企業の資金繰りを悪化させ連鎖倒産のリスクも
話を戻すと、資金不足で不渡りになった手形・小切手について、不渡り処分を当面猶予する今回の特別措置によって、手形交換所の不渡報告への掲載、取引停止処分が猶予され、不渡りを出した企業の信用が一気に失われて倒産に追い込まれるリスクは確かに低下する。
同様の特別措置は、1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災の際にも発動された。東日本大震災では、東北3県を中心に半年間で22億円超の不渡り処分が猶予されたという。 ところで、全国銀行協会は22日に、3月に不渡りとなった手形の枚数が、全国で1,560枚となり、前年同月と比べて2.1倍になったと発表した。3月としては2017年以来の高水準である。また、金額は101億円を超え、昨年3月の約8.5倍にも膨らんだのである。
年度末である3月末は、手形の支払期日が重なったのだろう。金融庁と日本銀行が3月中に、手形や小切手の決済期日を猶予するように要請しておけば、信用力の低下や破綻を回避できた企業は多くいたのではないか。
他方、手形や小切手の決済期日が猶予されても、企業の支払い義務がなくなるわけではない。また、支払いが猶予されれば、期日に受け取るはずだった相手方企業が資金を受け取れずに、資金繰りに窮することにもなる。それが、連鎖的な企業の破綻につながる可能性もあるだろう。
融資と給付金支払いの連携と給付金の上積みが急務に
この点から、決済期日を猶予する特別措置は、企業の資金繰り対策、破たん回避策としては決定打とはならないのである。政府は緊急経済対策の第2弾で、新型コロナウイルス問題で大きな打撃を受けた中小・零細企業に対して、政策金融の枠組みを使って低利融資を行うことを決めた。
緊急経済対策の第3弾、いわゆる大型景気対策を含む2020年度補正予算が可決されれば、実質無利子融資も受けられる。返済する必要のない給付金も受けられるようになる。さらに、休業要請に応えた企業には、都道府県から協力金を受け取ることもできるようになる。
しかし、窓口の混雑で、中小企業が低利融資を受けるまでにはかなりの時間がかかっている。さらに、実質無利子融資、給付金、協力金を受けることができるのは、早くても5月中だろう。しかも、給付金、協力金は、中小企業の経営を維持するには十分な金額でないケースも少なくないだろう。
そうした中、緊急融資を受けることによって仮に破綻を回避できても、赤字と債務が膨らんでいくだけの状況が続けば、自ら廃業の道を選ぶ中小・零細企業も多く出てきてしまうのではないか。
決済期日を猶予する特別措置を通じて企業の信用力低下を回避するだけでは、中小・零細企業の存続を支えるのには十分ではない。政府は融資から給付金支払いへの連携をより迅速に行う必要がある。それと共に、給付額の上積みが、早晩必要になってくるのではないか。
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