パフォーマンス悪化で解約に動くヘッジファンドの顧客
金融市場の大幅な変動を受けて、ヘッジファンドから顧客資金が大量に流出している。調査会社ヘッジファンド・リサーチによると、今年1-3月期に、330億ドルの資金がヘッジファンドから流出した。これは、2009年1-3月期の420億ドルに続いて、史上4番目の規模である。
1-3月期のヘッジファンドの運用資産の平均リターンは-9.4%に下落した。S&P株価指数が同時期に-20%に下落したことと比較すれば、より小さい幅の下落にとどまったとも言える。
しかし、投資家はヘッジファンドに対して、相場の下落局面でも利益をあげることを期待している。ヘッジファンドの運用手数料は2%、運用パフォーマンスに応じたパフォーマンス手数料は20%程度が平均だ。これほど高い手数料を払っているからには、市場環境が悪かったとはいえ、-9.4%の平均リターンでは納得できずに、解約に動いた投資家が多かったのだろう。
パフォーマンスの悪化と資金流出傾向は、いわゆるビッグネームの著名ヘッジファンドでも変わらない。世界中に分散投資を行い、オプションやスワップなども活用して、市場の値下がり局面でも利益をあげられる仕組みになっているとされたルネッサンス・テクノロジーズでも、1-3月期の株式ファンドの時価総額は18%下落した。ブリッジ・ウォーター・アソシエイツでは、旗艦ファンドであるピュア・アルファ・ファンドの時価総額が、25%程度も下落したという。
顧客資金とともに人も流出
ファンドの種類別に見ると、債券、通貨、コモディティに投資するマクロ・ヘッジファンドは、相対的にはパフォーマンスは良かったものの、最も激しい資金流出に見舞われた。ヘッジファンドからの資金流出全体のおよそ3分の2は、このマクロ・ヘッジファンドで生じたのである。他方で、不良資産や社債の投資に特化したファンドには、15億ドルの資金が新規に流入したという。
投資資産の価格下落と投資家の解約の双方を通じて、ヘッジファンド全体の時価総額は、1-3月期に3,330億ドルもの大幅減少となった。その結果、時価総額は2016年1-3月期以来、初めて3兆ドルを下回ったのである。ヘッジファンドからは、顧客の資金と共に人も大量に流出している模様だ。
市場の価格下落と資金の流出は相乗的に進む
ところで、市場の価格下落と資金の流出は、相乗的(スパイラル)に進みやすい点に注意が必要だ。投資家が解約を要求すれば、ヘッジファンドは投資資金を現金で返す必要がある。しかし、手持ちの現金が十分にない場合には、運用資産を売却しなければならなくなる。それは、資産市場での価格を大きく下落させるきっかけともなる。その結果として、投資パフォーマンスが悪化すれば、投資家はさらにヘッジファンドから資金を引きあげることになる。このようにして、市場の価格下落と資金の流出とが、スパイラル的に進行するのである。
他方で、顧客の換金に備えて現金を大量に保有すれば、運用パフォーマンスが低下してしまうため、ファンドは、現金の保有はできるだけ抑えようとするのが普通だ。国際通貨基金(IMF)の推計によれば、ヘッジファンドを含む(いつでも解約できる)オープンエンド型の債券投資ファンドでは、現金保有比率は資産全体の7%に過ぎないという。このもとでは、上記のスパイラルのリスクは相応に高いのではないか。
マーケット・メイク機能の低下も通じて金融市場を混乱させやすい
近年は、銀行に代わってヘッジファンドを含む投資ファンドが、債券市場などでのマーケット・メイク機能(常時売り買い両方の気配を示して、投資家の注文に応じること)を担ってきた。
しかし、ヘッジファンドなど投資ファンドが換金のために債券を売却することを強いられれば、債券市場でのマーケット・メイク機能はかなり低下してしまうだろう。それが、市場の流動性の低下を通じ、価格のボラティリティ(変動率)をさらに高めてしまうのである。
投資ファンドの中で、顧客からの換金要求に応えられずに、解約の停止に追い込まれた例はまだ少ない。しかし、換金要求に直ぐに応じられないという、流動性リスクに直面した投資ファンドは既に多い。格付け会社フィッチによると、資産の合計が400億ドルに達する76の投資ファンドが、投資家からの換金要求に直ぐに応じることができなかったという(当コラム「 投資ファンドの流動性危機を警戒する金融当局 」、2020年4月22日)。彼らが流動性リスクを抱えていたからである。
ヘッジファンドなど投資ファンドがこうした大きな問題を抱えている限り、金融市場の危機が去ったとは到底言えず、市場での大幅な価格調整はいつでも起こりうる、と考えておくべきだろう。
(参考資料)”Hedge funds suffer biggest outflows since financial crisis”, Financial Times, April 23, 2020
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。