政府が休業要請・指示のガイドラインを作成
政府は4月23日、都道府県知事が特定企業に休業を要請・指示を行う際の条件などを定めたガイドライン(指針)を作成し、各都道府県に通知した。
ここでは、休業要請・指示は、実地調査をして、対象施設への事前通知をしても業者が従わないこと、対象施設がクラスター(集団感染)の発生リスクが高いと専門家に認識されていること、が前提であるとした。また、休業要請をした場合には、内容や理由を含め、施設名と所在地を都道府県のホームページで公表する、としている。
これとは別に、混雑が問題視されている、スーパーや商店街の店舗に対して、1)人が密集する場合の入場制限、2)一方通行の誘導、3)入店・会計時の行列位置の指定、4)入店前後の消毒の徹底、などを呼びかけるよう、都道府県に対して政府が依頼している。また、公園利用者の感染対策も求めた。さらに、ホテルなどが行楽目的で営業する場合には、「事業の継続が求められる事業者」として扱わないようにも要請している。
政府は休業要請に慎重な姿勢
都道府県知事は、既に遊興施設などに休業要請を行っている。しかしこれは、改正新型インフルエンザ特措法の中で、緊急事態宣言が出されていなくても都道府県知事が出すことができる、特措法24条に基づく「休業の協力要請」である。協力の要請であるため、休業要請と比較してその実効性は劣る。
しかし当初から、小池東京都知事は、特措法45条2項に基づく休業要請・指示を実施するつもりであった。それを、政府が押しとどめたのである。
政府が特措法45条2項に基づく休業要請・指示に慎重であるのは、国民の私権を制限してしまうことへの配慮に加えて、休業要請を出すと、対象となる事業者から休業補償の要求が強まること、訴訟を起こされる可能性があること、を警戒したため、との指摘がある。
パチンコ店への対応が念頭に
ところが、小池東京都知事を始め都道府県知事らの間では、より実効性の高い特措法45条2項に基づく休業要請・指示を実施したい、とする意見が高まっていった。そして都道府県知事らは、特措法45条2項に基づく休業要請・指示を実施する際のガイドラインを示すよう、政府に強く働きかけたのである。その際に、主に念頭にあったのはパチンコ店である。
パチンコ店については、特措法24条に基づく「休業の協力要請」の対象となっている都道府県と、そうでない都道府県とがある。そこで、対象の都道府県から人が移動し、対象外の都道府県のパチンコ店に集まることが問題とされていた。さらに、対象となる都道府県でも、「休業の協力要請」を受け入れないパチンコ店が少なくない。
そこで、特措法45条2項に基づく休業要請・指示を行い、要請を受け入れない店の名前を公表することを強く望む都道府県が出てきた。それが大阪府である。こうした都道府県の動きに押される形で、政府は今回ガイドライン(指針)を示すことになった。
その後24日、大阪府は、休業要請に応じない大型パチンコ店6店について、特措法45条に基づき、ついに施設名を公表した。
国と地方との権限争いが表面化
休業要請を巡る対立が、4月7日の緊急事態宣言発令直後から、政府と小池都知事との間で表面化した。これは、感染拡大抑止のために強い施策を講じるべきと考える小池都知事と、経済・社会の安定維持とのバランスを重視する政府との間での、対策を巡る方針の違いを反映していた。
それに加えて、両者間の権限争いの側面もあった。緊急事態宣言が発令されれば、法の規定に基づいて、休業要請などの具体的な施策を決める権限は都道府県知事に移るとする小池都知事と、具体的な内容の規定はないものの、特措法に含まれる政府の「総合調整」という機能を根拠に、基本的対処方針に基づいて、自らが対策を主導する姿勢を強調した政府との間の対立、という構図である。
法解釈の違いはともかく、この重要な時期に、感染対策を巡って国と地方政府が対立するのは、国民に強い不信感と不安を与えるものであり、大いに問題だった。
国と地方との役割分担が進む
しかし、ゴールデンウイークを前にして、この時期中に感染が拡大してしまうのではないか、という危機感を双方がしっかりと共有した。そのことで、国と地方政府の対立の構図は、緩和されてきたように思われる。その結果の一つが、政府のガイドラインの下で、休業の協力要請から休業要請・指示へと規制が一歩進められた、今回の新型コロナウイル対策の強化策なのである。
大阪府の吉村知事は、買い物客が集中して感染リスクが高まるのを避けるため、府内のスーパーの入店制限の指針を決め、それぞれのスーパーに要請する考えを明らかにした。高齢者や妊婦、障害者が優先的に利用できる時間を最低1時間確保し、大勢が集まりやすい「ポイントデー」を分散させることなどを検討しているという。また大阪市の松井市長も、スーパーに行くのは奇数の日か偶数の日かいずれかだけにする、という独自案を示している。東京都の小池知事は、買い物を3日に1回程度とするよう都民に要請し、スーパーには買い物かごの数を減らすことなどを求めている。
感染対策については、政府がその大枠の方針を各都道府県に示し、都道府県知事が地域の特性を十分に考慮して、その具体策を詳細に決めていく、という望ましいすみ分け、役割分担の姿が、ようやく見えてきたのではないかと思う。
ゴールデンウイーク後2週間が分水嶺に
5月6日に期限を迎える緊急事態宣言が延長されるかどうかの判断は、ゴールデンウイーク中に政府から公表されるだろう。しかし、国や地方公共団体が特に注目するのは、ゴールデンウイーク中に感染拡大が広がったか否かである。それが確認できるのは、ゴールデンウイークが終わってからおよそ2週間程度経った時点だ。
これを確認する前に政府が、緊急事態宣言を5月6日に終わらせることを決めることはないのではないか。最短でも2週間延長されるのではないだろうか。そして、ゴールデンウイークから2週間程度の時点で、感染者数の増加ペースが相当程度減少していれば、外出自粛要請、休業要請などの規制の一部を、段階的に緩和していく措置が検討されるだろう。
しかし、その時点でもなお感染者数の増加ペースが高水準で続く、あるいは感染爆発(アウトブレイク)の兆候が確認される場合には、今まで以上に厳しい規制措置が講じられることになる。
ゴールデンウイークからおよそ2週間後が、新型コロナウイルス対策の分水嶺となるのである。
法改正、改憲議論に発展も
さらに、ゴールデンウイーク後2週間程度の時点で、感染者数の増加ペースが高水準で続く、あるいは感染爆発(アウトブレイク)の兆候が確認される場合には、法改正の議論も一気に高まっていくのではないか。
欧米流の強制力を伴うロックダウン(都市封鎖)を可能にする法制整備について、与野党内では既に議論がなされている。安倍首相も、「現行法に基づく対策を徹底しても、(感染抑制に)まだ不十分ということになれば、新たな法制を考えることも当然、視野に入れなければならない」と発言している。
また自民党内では、そうした新たな法制を可能にするために、憲法を改正して「緊急事態条項」を加えることを提案する動きもある。新型コロナウイルス対策が、改憲の議論とも結びついてきたのである。
ゴールデンウイーク期間中に試される国民の叡智
ただし、憲法を改正して「緊急事態条項」を新たに加えなくても、ロックダウン(都市封鎖)を可能にする法制整備は可能だ、とする意見も多い。日本国憲法第十二条では、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」とされている。つまり、「公共の福祉」のためであれば、人権は一定程度制限され得るのである。
この「公共の福祉」を根拠に、現行憲法のもとでも、人々の外出を強く制限するような法規制を導入することは可能だ、と解釈する向きは多い。仮にそうであれば、ロックダウン(都市封鎖)を可能にする新たな法律は、比較的迅速に導入されることになるだろう。
しかし、外出や行楽の誘惑が多いこのゴールデンウイーク期間中に、国民一人一人が人との接触を極力避けることを心掛けさえすれば、2週間後にはその成果は目に見えて表れるはずだ。そうなれば、自らの自由な行動を罰則と強制力を持って強く規制することを認めるような新たな法律が、国民の代表者からなる国会で成立することもない。国民が、外出自粛などの努力を通じて、自らの自由を守ることができるのである。日本国憲法第十二条のいう「自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」というのが、まさにこのことを教えているのではないか。
日本国民には、是非ともそうした賢明な道を選択して欲しい。日本国民の叡智が、このゴールデンウイーク期間中に試されようとしている。
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