欧州から資金を引き揚げて米国に振り向ける動き
新型コロナウイルス問題を受け、欧州から資金を引き揚げて自国に振り向ける動きが、米銀の間に見られている。銀行も「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の姿勢を強めているのである。こうした動きは、欧州企業の資金繰りを逼迫させる要因ともなっている。
過去数週間、米銀は欧州地域全体で、欧州企業に対する単独あるいは協調での融資に慎重になっているという。ドイツでは、JPモルガンが化学大手のBASFに対する追加のクレジットライン(信用枠)の設定に応じないことを決めた。また、バンカメは、スポーツ用品大手のアディダスに対する政府保証付きの30億ユーロの国際協調融資の融資額を、他の6つの銀行よりも半分に絞ることを決めた。
またゴールドマン・サックスは、米国とイタリアの合弁自動車会社であるフィアット・クライスラーに対して35億ユーロの協調融資を行う一方で、ドイツの自動車会社ダイムラーに対する協調融資には加わらなかった。
危機時のホームバイアス
今年1-3月期で見ると、ドイツでの協調融資で、大手5米銀の市場シェアは3分の1以上低下して14.6%になったという。米銀のこうした自国回帰の傾向は、米国の金融当局の要請によるところもあるようだ。危機時には、まず自国の企業に優先的に資金を供給して欲しい、ということなのだろう。他方、米銀の自国回帰の動きに対して、ドイツなど欧州の金融当局は警戒を強めている。
しかし、米銀の国内回帰は、どうも米当局の要請によるものだけではないようだ。協調融資では、欧州の銀行はかなり高いリスクを負う形で、欧州企業への貸出を拡大させている。そこには、欧州の当局による企業救済のための働きかけが大きく影響しているのではないか。同じ条件で協調融資に加わると、それが不良債権化してしまうことを、米銀は警戒しているのである。
新型コロナウイルス問題のような危機時には、各国で、必要な医療関連品の供給は国内優先となり、また国内産業・企業を守るために、自由貿易のルールに反する形で保護主義的な政策がとられやすくなる。金融業でも、強いホームバイアスが生じることは不思議ではない。
ただし、危機時を脱した際には、こうしたホームバイアスは速やかに解消していくことが必要だ。それができなければ、ポスト・コロナ時代は、他国主義の流れが後退した状態が固定化し、ヒト、モノ、カネの流れが停滞する中で、世界経済のダイナミズムは大きく失われてしまうおそれがあるだろう。
(参考資料)
"US banks put America first as loans to Europe groups dwindle", Financial Times, April 28, 2020
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