中国で観光が本格再開へ
今年の日本の大型連休(ゴールデンウイーク)は、多くの人が自宅にとどまる前例のない事態となった。これとは対称的に、中国の5月1日~5日までの5日間にわたるメーデー(労働節)連休では、観光地への旅行が本格的に再開された。また、これまでの自粛の反動から消費意欲を爆発させる「リベンジ消費(報復性消費)」も、この時期に拡大した。
中国では、新型コロナウイルス対策の外出制限が緩和される中、メーデー連休の旅行者数が、1億1,500万人に達した。前年同時期と比べれば41%減少ではあったが、予想を上回る回復ぶりとなった。中国のネット検索大手、百度(バイドゥ)によると、5連休初日の5月1日に市外に出かけた人の数は、4月4日の清明節(先祖を祭る中国の伝統的な祭日)と比べて50%近くの増加となった。
文化観光部によると70%近くの観光地が、既に再開している。ただし、感染が再び拡大してしまうことへの警戒から、ほとんどの観光地では事前予約制となっており、観光客の人数制限や分散などの措置が講じられているという。
「クラウド観光」も拡大
しかし、外出することで感染してしまうことを警戒する人は、ネット上で観光を楽しんでいる。仮想現実(VR)商品、ライブ配信観光、オンライン観光などのサービスを通じて、自宅に居ながらにして世界を見ることができる、オンラインの「クラウド観光」が人気を集めているのである。
ショート動画共有アプリのTikTokはこの連休中に、ライブ配信イベント「クラウド端末観光局」を打ち出した。視聴者はカメラと一緒に雲南省大理市、新疆ウイグル自治区のカナス、浙江省の普陀山、チョモランマ(エベレスト)などの有名な観光地を訪れたのである。
クラウド観光は、実際の観光と比べて多くのメリットがある。現状では感染を避けることができるという点が最大のメリットであるが、それ以外にも、時間と経費を節約できること、天候、交通事情などに左右されないこと等がある。クラウド観光は、今後、中国人の生活に根付いていくことも考えられるだろう。
自宅でのネットショッピングが盛んに
他方で、メーデー連休中には、自宅でネットショッピングを楽しむ人も多かった。アリババのEC(電子商取引)モール、淘宝(タオバオ)のデータによると、メーデー連休中の家電の売上高は前年同時期比+196%、調理器具が同+89%、照明器具は同+53%となり、自宅での生活を楽しんでいる消費者の様子がうかがえる。
テレワークとオンライン学習の需要増加を受けて、携帯電話の売り上げは同+70%、ノートパソコンの売り上げは2倍に、タブレットコンピューターは3.5倍にまで増加した。
他方、輸入品購入も同+41%増加した。その内訳を見ると、デジタル家電が前年同時期比+381%、化粧品が同+42.5%となっている。人気の旅行先である日本、韓国、米国、オーストラリア、タイなどからの輸入品が、特に人気を集めたという。海外旅行先での買い物を代替する消費行動である。
中国ではクーポン券が消費拡大を後押し
アリババグループのモバイル決済アプリ「支付宝」(アリペイ)のデータによると、メーデー連休中に、29省・自治区・直轄市の消費額が、前年同時期比で増加した。
そのうち西部地域や東北地域などでは、消費クーポンによる消費促進効果が目立ったという。また、この消費クーポンの効果によって、都市部では夜間の飲食や夜市が賑わいを取り戻した。それらに、観光スポット、シェア自転車、ホテルなども含めた「夜間経済」(ナイトタイムエコノミー)の消費額は、昨年のメーデー連休期間と比べて2割増になったという。
景気回復を後押しするため、3月に入ってから80以上の都市(区)が、アリペイなどのプラットフォームを通じて、消費クーポンを発行した。この消費クーポンは、スマートフォンを使って受取り、また利用することができる。他人と接触することなく、感染のリスクを抑えつつ、利用することができるのである。
中国の例が日本の消費喚起策の参考に
日本では、先般成立した2020年度補正予算の中に、新型コロナウイルスが収束した後に、低迷した国内消費を押し上げる施策が盛り込まれた。それは「GoToキャンペーン」と銘打ったもので、1兆6,794億円が計上されている。
そこで活用が検討されているのが、消費クーポンだ。旅行業者を通じて旅行を予約すると、1泊2万円分を上限に、旅行代金の半分に相当するクーポンがもらえる。それは、宿泊代の割引や地域の特産品の購入などに使うことができる。
またこの消費クーポンは、飲食やイベントでも利用できるようにするという。飲食店予約サイトを利用して食事をすると、1人あたり最大1,000円分のポイント還元を受けられる。音楽ライブなどでは、チケット代金の2割分のクーポンが付与されるという。
中国の例のように、ネット上でこの消費クーポンを配布することも検討したらどうか。感染のリスクがある人と接触することなく、消費クーポンの取得と利用が可能となる。
また、新型コロナウイルス収束後の旅行を促すために、中国のように「クラウド観光」のサービスを、業者あるいは政府が進めてみてはどうだろうか。これならば、収束前の現在でも実施できる。
中国の施策の成否を見極めつつ日本は出口戦略を
他方、中国では、地域の名産品などの販売促進のため、ライブ配信(生放送)が活発に行われている。その配信には、店舗の従業員やいわゆるインフルエンサーに加えて、各地域の政府幹部の登場も話題を集めているそうだ。市や県の幹部が多くライブ配信に登場し、当該地域の農産品や特産品を積極的にPRしているのである。商務部の発表によると、この第1四半期に100人を超える市長や県長がライブ配信を行ったという。
日本でも、感染が収束した後には、地域の観光と名産品販売を促進するために、都道府県知事、市町村長らもライブ配信を行ってみたらどうか。
感染拡大抑制のための規制措置については、日本は中国に対して一周遅れの状況にある。しかし、その分、経済再開策や消費喚起策などで、中国の例を参考にしながら決めることができる、というメリットもあるだろう。
以上で述べたような、中国での実際の例は、大いに参考になるのではないか。他方、仮に中国で、拙速な旅行・外出の緩和、経済活動の再開などが感染の拡大を再びもたらしてしまう場合には、日本はそれを反面教師にしつつ、慎重な出口戦略を講じることも可能となるだろう。
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