与党が事業者の家賃支援策を提言
先日2020年度補正予算が成立したばかりであるが、早くも2次補正予算を視野に入れた追加経済対策の議論が活発化している。その議論の中核にあるのが、事業者の店舗家賃支援策である。
補正予算の審議の中で、立憲民主党など野党5党は、日本政策金融公庫が家賃を一時的に肩代わりする、支払い猶予(モラトリアム)法案を国会に提出していた。国民の関心が高いこの家賃支援策で野党に議論の主導権を奪われたと考えた与党の自民、公明両党は5月8日に、家賃支払いが困難になった中小・小規模事業者などへの支援策を決定し、安倍首相に提言した。
この提言は、売り上げが半減など大幅に減少した中小事業者に対して、家賃支払いの最大で3分の2を助成するものだ。既に導入されている金融機関からの無利子無担保の融資でまずは資金繰りを支え、その後に家賃支払い分を補助する仕組みである。政府系金融機関などからの無利子・無担保融資と、国からの「特別家賃支援給付金」を組み合わせた、「ハイブリッド型家賃補助制度」と名付けられた。
この家賃支援は、6月分からの半年間が対象となる。助成は家賃支払いの最大で3分の2だが、上限は月50万円、半年分で300万円に設定されている。個人事業主については月25万円、半年分で150万円が上限である。
上限の月50万円という金額は、東京での平均的な家賃支払い額から算出したものだという。1か月の売り上げが前年同月比で50%以上減っている事業者が対象となるが、与党は、3か月の売り上げが30%以上減少した事業者も対象に含めることを検討するよう、政府に求めている。
追加の家賃支援には4.8兆円が必要と推計
筆者の記憶では、補正予算に含まれた持続化給付金について、首相は、半年分の家賃支払いを想定したもの、と国会で説明していた。それが正しいとすれば、追加で支給する必要はないはずだが、他方で与党から追加の財政支援策の提言を受け取った安倍首相は、「この案を基に、政府としても全力を挙げて対策を講じていきたい」と話しており、追加支援策の実施はもはや既定路線となっている。
筆者の試算では、半年間で企業の売上高が70.6兆円減少することを前提に、総額7.1兆円の家賃支援が必要となる。補正予算で計上した企業向けの持続化給付金2.3兆円が、主に家賃支援を念頭に置いたものであるならば、半年間で未だ4.8兆円の追加の家賃支援が必要となる計算となる(コラム「 緊急事態宣言延長後の追加財政支援必要額の推計:半年間で32兆円 」、2020年5月7日)。従って、追加で家賃支援策を実施することは正しい。
政府の対策は受け身の印象
与党案に基づいて政府が実際の家賃支援策をまとめた場合、3月から5月分までの3か月分、あるいは4月から5月までの2か月分の家賃支援は、中小企業で最大200万円の持続化給付金で対応し、その後、6月から年末までの6か月分の家賃支援は、新たな「特別家賃支援給付金」で対応する、と後付けで政府は説明することになるのだろうか。
他方、「特別家賃支援給付金」で必要となる予算の総額は、2兆円程度であるという。5月までの2~3か月分よりも、6月からの半年分の家賃支援規模が小さくなるというのはどういうことなのか。企業の売上高が次第に回復していき、家賃の支払い余力が高まっていく、という前提なのか。また、持続化給付金は、半年分の家賃支払いを想定したもの、との首相の説明はどうなってしまったのか。
また、上記の筆者の試算によれば、2兆円規模では、事業者の家賃負担の支援には未だ十分ではない。
こうしてみると、政府・与党の支援策の設計は精緻さを欠く印象であり、また、強い批判が出てくればそれに対応していく、という場当たり的で受け身の姿勢が強いように思われる。どこにどの程度の規模の支援が必要であるのか、といった全体像を掴み切れていないのではないか。
事態は刻々と変わるため、それも仕方ない面はあるが、できるだけ全体像を把握したうえで、先手を打った対応が重要だろう。
家賃支援は地方主導で
ところで、この与党案には、公明党が主張した地方自治体への支援策の拡充が盛り込まれた。これは評価できる点だ。独自の家賃支援を既に実施している地方自治体は多い。この案では、「特別家賃支援給付金」という全国一律で実施される助成制度に加えて、各自治体が上乗せの支援をするという構図になる。その資金を、地方自治体向けの臨時交付金を拡充することで賄うという考えのようだ。
そもそも、家賃相場は地域差が大きく、事業者の家賃支払い負担にも大きなばらつきがある。それを国が定めた一律の基準で支援することには、本来無理があるのではないか。その穴埋めを地方自治体が行うのであれば、最初から臨時交付金の大幅増額を通じて、追加の家賃支援策は地方自治体に任せるのも一案ではないだろうか。
個々の事業者が、どれだけ家賃支払いの負担があるのか、その負担によってどの程度倒産や廃業のリスクがあるのか、等については、地方自治体でしか分からないことだ(コラム「 与野党間で議論が高まる事業者の家賃支援は地方主導の枠組みで 」、2020年4月27日)。
一般に経済危機への対応は、全貌が見えにくい当初の時期には、大まかであっても迅速な対応が求められる一方、次第に細かい設計へと発展させていき、支援が必要な企業・個人にピンポイントで資金が届くようにしていくことが重要だ。この観点からは、家賃支援に限らず、新型コロナウイルス問題を受けた経済対策全体で、こうしたステージ感をしっかりと持って、段階的に支援策を進めていくことが重要ではないか。現状の支援策では、そうしたステージ感はあまり見えてこない。
緊急事態宣言を巡っては、国と都道府県との間の対立が目立った。これは、有効な新型コロナ対策という観点から、国民に不安をもたらしてしまったのではないか。経済危機時に、必要な支援をピンポイントで個人、企業に届けるには、国と地方自治体との強い連携が必要であることを忘れてはならない。
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