緊急事態宣言の対象区域は経済規模で半分へ
政府は、14日に専門家会議と諮問委員会を開き、宣言解除の区域を決定する。
今までの経緯を簡単に振り返ると、政府は4月7日に7都府県に緊急事態宣言を発令した。その後4月16日には、その対象地区を全国47都道府県にまで広げた。その際に、北海道、茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川、石川、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、福岡の13都道府県を、重点的に対応する「特定警戒都道府県」に指定した。さらに5月4日には、6日までの宣言期間を月末の31日まで延長することを決めている。
各種報道によると、政府は、「特定警戒都道府県」以外の34県に加えて、「特定警戒都道府県」の茨城、愛知、岐阜、京都、福岡の5府県について、宣言の解除を検討しているという。
その場合、緊急事態宣言が月末まで継続するのは8都道府県となる。8都道府県の所得は全国の49.5%(内閣府、平成28年度県民所得計算による)と、約半分となる。当初の7都府県の所得が全国の48.8%であったことから、経済規模で見れば、この7都府県にほぼ戻る形となる。
経済への影響は個人消費9.3兆円減少、GDP1.7%低下に多少縮小
筆者の試算によると、5月7日から31日までの緊急事態宣言延長によって、個人消費は11.2兆円減少し、2020年のGDPは2.0%低下する計算となる。しかし、緊急事態宣言の対象が5月15日から8都道府県に縮小されれば、この計算も変わってくる。
ただし、緊急事態宣言の対象区域から外れる39府県でも、経済活動が以前の水準に戻る訳ではなく、引き続き外出自粛、個人消費の自粛は強く残るはずだ。そこで、対象区域から外れる府県での消費活動が、15日からは以前の半分の水準まで戻ると仮定しよう。
その場合、5月7日から31日までの緊急事態宣言下で個人消費は9.3兆円減少し、2020年のGDPは1.7%低下する計算となる。全都道府県で月末まで緊急事態宣言が続いた場合の経済への悪影響と比べると、多少緩和はされるものの、それでも比較的大きな影響が生じることには変わりはない。
拙速な経済活動の再開に警鐘を鳴らす感染症の専門家
政府は14日に続いて、1週間後の21日頃にも宣言の範囲を再検討するという。月末までに、更に対象区域が縮小される可能性もあるだろう。他国に続いて日本も、徐々に経済活動の再開に向かって動き始めてきた。
他方、感染症の専門家の多くは、拙速な経済活動の再開が感染の再拡大を招くことに警鐘を鳴らす。5月12日には、トランプ米政権の新型コロナウイルス対策本部に加わる国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が、経済活動の再開を急げば「制御できない感染の急拡大を引き起こすリスクがある」と警告し、大統領選挙を視野に入れて経済再開に前のめりのトランプ大統領を強く牽制した。ファウチ所長は、行動制限を性急に緩めれば「回避できるはずの苦難や死につながるだけでなく、経済回復を遅らせる可能性もある」とも指摘している。
感染拡大抑制と経済の安定は両立可能
また経済学者の中でも、感染拡大の抑制が多少長い目で見れば経済の悪化をもたらさない、ということを指摘するものが増えている。感染拡大抑制の効果と経済への影響とが、必ずしもトレードオフの関係にはないのである。
100年前のスペイン風邪の経験はその点を裏付けており、スペイン風邪流行時に、感染拡大が広がった米国の都市では、一時的に経済活動が悪化しただけでなく、長い期間にわたって悪化してしまった。他方で、早期に、広範囲な感染拡大抑制策を講じた都市では、中期的には経済への悪影響は残らなかったという。
早期に、また広範囲に厳しい感染拡大抑制策を講じれば、多少長い目で見ると、低い死亡率と安定した経済の両方をともに手に入れることができるのである(コラム「 100年前のスペイン風邪の経験に学ぶ新型コロナ対策と日本の出口戦略 」、2020年5月1日)。
政府は慎重な出口戦略を
ただし各国政府が、こうした専門家の考えに沿って経済活動の再開、感染拡大抑制策の出口戦略を進めていくとは限らない。自粛疲れで早期の規制緩和を求める消費者の声や、早期の経済活動再開を求める企業の声も、出口戦略を巡る政府の意思決定に大きな影響を与えるためである。
日本での感染拡大抑制策は、中国や欧米各国よりも遅れて始まり、より緩めである、という特徴が指摘できる。その反面、対策の実施期間はより長く、経済活動再開はより遅れやすい、と考えられるだろう。
そのことはデメリットではあるものの、他国の出口戦略の効果を見極めることができる、というメリットも指摘できるだろう。つまり、他国での拙速な出口戦略が感染拡大の第2波を招くことがないかどうか、その帰趨を確認する時間的猶予が、日本には多少与えられるのではないか。政府は、他国の動向も見極めたうえで、慎重に出口戦略を進めて欲しい。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。