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4月に非労働力人口が急増した謎

29日に発表された4月分の労働関連統計を見ると、失業率(季節調整値)は前月から0.1%ポイント上昇して2.6%、有効求人倍率(季節調整値)は0.07低下して1.32になるなど、労働市場の悪化を裏付けている。しかし、こうした表面的な数字以上に、4月の雇用情勢は実は急激に悪化しているのである。

4月の就業者数(季節調整値)は、前月から107万人減少した。これは、雇用者と自営業者等からなる就業者数が、1か月で1.6%も減少するという急激な雇用調整が行われたことを裏付けている。非正規社員が前年同月比で97万人(原計数)も減少しており、雇止めなどの影響が確認できる。

ところが驚くことに、完全失業者(季節調整値)は前月からわずか6万人しか増えていないのである。就業者でなくなった人のほとんどが分類されたのは、15歳以上人口のうち、働く能力、働く意思を持たない人(学生、主婦を含む)である「非労働力人口」だ。それは前月から94万人(季節調整値)も増加した。

コロナショックを受け解雇されたことをきっかけに、リタイアを決めた高齢労働者はいるだろうが、ごく少数のはずだ。それ以外に、働く意思を一気に失う人が94万人も出てきたと考えるのは現実的ではない。

公共職業安定所での求職申込手続きに遅れか

職を失った人は、公共職業安定所(ハローワーク)に申請をして、職探しの意思を示すことで、失業手当を受け取ることができる。そうした人が、失業者に分類される。ところが、4月の新規求職者数(季節調整値)は、3月と比べて2万人減少している。

それでは、前月から94万人も増加した「非労働力人口」に分類された人は、いったいどういった人なのか。解雇されてもなお働く意思はあるが、公共職業安定所に求職の申し込み手続きが終わっていない人である。

公共職業安定所への求職の申し込みが殺到したため、事務処理が滞り、申請手続きが終わっていない人が多くいるだろう。また、あるいは感染を恐れて、申請手続きをしばらく見合わせている人もいると考えられる。そうした人の多くは、5月の統計では新規求職者となり、そして失業者となるだろう。

実質的な失業率は4.1%に

前月から107万人減少した4月の就業者数(季節調整値)を、実質的な失業者とみなした場合には、失業者は279万人に達し、失業率は4.1%となる計算だ。また、新規求職者数も107万人に増加するとすれば、有効求人倍率は4月の1.32倍(季節調整値)から0.82倍へと一気に1倍割れになる計算だ。

さらに、4月には休業状態で休業手当を受けている休業者(就業者に分類される)は、前月から348万人(原数値)増加した。こうした人は、失業予備軍と言えるだろう。そうした休業者の増加も実質的な失業増加数に計上した場合には、4月の潜在的な失業者は455万人増加して627万人、潜在的な失業率は9.2%となる計算だ。

5月には、失業率は一気に4%前後まで上昇する可能性があるが、さらに雇用調整助成金制度がうまく機能しない場合には、休業者が失業者へと転換してくことで、失業率がさらに上昇するだろう。また、企業から休業手当を受け取っていない実質的な就業者も、相当規模に達していると推察される。そうした労働者は、休業手当も失業手当も受け取っていない無収入者である。そうした人々を、雇用調整助成金制度の機能向上や、政府が2次補正予算案に含めた「みなし失業制度」を通じて、早急に救済していく必要がある。

筆者は、政府の雇用政策が相応に機能することを前提に、失業率は6.1%まで上昇、政府の雇用政策が上手く機能しない場合には、失業率は6.9%まで上昇すると予想している(コラム「 失業者265万人増で失業率は戦後最悪の6%台:隠れ失業を含め11%台に 」、2020年5月11日)。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。