プラットフォーマーはコロナショック下の「勝ち組」か
コロナ問題、それと関わる米国での黒人男性の暴行死事件に対するデモ・騒動は、米国でのSNSのプレゼンスを大きく高めている。
感染回避のために人々が自宅にとどまる傾向が強まるなか、ユーザーのネット利用は増え、GAFAなどデジタルプラットフォーマーは、高水準の広告収入を得ているだろう。コロナショックの下で少数派の「勝ち組」である。
他方、全米各地でのデモ・騒動では、SNSがいわば主戦場の役割を果たすようになっている。デモ・騒動のきっかけとなった警官による逮捕時の黒人男性の死亡の様子は、一般人によってフェイスブックに動画で投稿された。この動画が拡散し、反発と怒りを全米にまで広げる役割を果たしたのである。
ツイッターがトランプ大統領と全面対決
そうした中、まさにコロナ問題とデモ・騒動の双方をきっかけに、トランプ大統領と米国SNS大手のツイッターとの間で、激しい闘いが繰り広げられている。
ツイッターは5月に事実確認ツールを導入した。真偽が明らかではない投稿に警告を発するものだが、新型コロナウイルスに関する偽情報対策を主に意図して導入されたもののようだ。ところが導入から2週間後、その事実確認ツールは、ツイッターとトランプ米大統領との直接対決の引き金となったのである。
5月26日にツイッターは、郵便投票が不正投票につながると主張したトランプ大統領の投稿について、根拠がなく誤解を招く内容だとしてファクトチェック(事実確認)を促すリンクを追加した。
これに激怒したトランプ大統領は28日に、ソーシャルメディアや他のプラットフォーマーを保護している現行の連邦法を制限する大統領令に署名した。さらに自身の投稿に対する注記を停止しなければ、ツイッターの事業を解体する、と脅したのである。
ところが、 5月29日には、黒人男性の暴行死事件に対するデモ・騒動に関してトランプ大統領が「略奪が始まれば、銃撃も始まる」と投稿したことを受け、ツイートは暴力を煽るとの警告をこの投稿に加えることで、トランプ大統領との全面対決姿勢を崩さないことを改めて明らかにしたのである。
ツイッターがトランプ大統領との対決姿勢を強めた背景には、大統領の投稿を会社規定の例外とすべきでない、という意見がツイッター社内で時間をかけて高まっていった結果であるようだ。他方、フェイスブックはトランプ大統領の問題投稿を依然として黙認していることから、フェイスブック社内ではザッカーバーグCEO(最高経営責任者)に対する批判が強まり、ストライキが生じている。
プラットフォーマーへの法的保護を制限
トランプ大統領が署名した大統領令では、プラットフォーマーへの法的保護の制限が提案されている。それは、1996年に議会で制定された通信品位法第230条だ。これによって、プラットフォーマーはユーザーの行為に関する法的責任を広く免除されている。例えば、SNSでユーザーが投稿した他者への批判的なコメント内容を巡って名誉毀損の訴訟が起こされる場合でも、プラットフォーマーは訴訟の対象とはならない。これがないと、SNSなどのビジネスは成り立たなかっただろう。
他方で、プラットフォーマーはユーザーが発信するコンテンツに何ら責任を持たないということではない。通信品位法第230条のもとでは、サイト上のコンテンツを「誠意」を持って監視する、という法的義務が、プラットフォーマーに課せられているのだ。
トランプ大統領が署名した大統領令は、サイト上のコンテンツを「誠意」を持って監視するという、第230条で定められたこの法的義務をプラットフォーマーが果たしていない場合には、連邦通信委員会(FCC)がそのように判断を下すことを求めている。
また、プラットフォーマーが不当にアカウントを停止したりコンテンツを阻止したりしていないか、連邦取引委員会(FTC)に調査するよう指示している。
大統領令は効力を失うか
しかし、この大統領令は効力を発揮しない可能性が高そうだ。FCCとFTCはいずれも独立機関であり、大統領からの一定の独立性を有することが法で定められている。大統領令に含まれるような行動を、大統領の命令で実行する義務はない。
ただし大統領令の一部は、異議申し立てがなされなければ即座に発効する可能性があることから、それを取り消す訴訟が今夏にも起こされる見通しだ。それを実施するのは、FCCあるいはFTCである。
トランプ大統領は、自身の投稿に対する注記をツイッターによる「検閲」と批判し、それを停止しなければ、ツイッターの事業を解体すると脅している。しかし、それは脅しの域を出ておらず、実行されることはない。
プラットフォーマーへの政治的圧力は続く
野党民主党は、このようにプラットフォーマーに対する規制強化に動くトランプ大統領を強く批判している。もともと民主党は、ユーザーのプライバシーを侵害し、その利益を損ねている、あるいはヘイトスピーチなどコンテンツの監視を怠っているとして、プラットフォーマーを強く批判してきた。一時は民主党の大統領候補の座を争っていたウォーレン氏は、プラットフォーマーの解体を強く主張していた。
ところが、今度は、コンテンツの監視を十分に行っていないのではなく、それとは全く逆に、ユーザーのコンテンツに不当に介入しているとして共和党のトランプ大統領から批判を受け、解体すると脅されているのだ。今回の問題を受けて、プラットフォーマーに対する規制強化のあり方は、大統領選挙の争点の一つとして再び注目されることになるだろう。
コロナ問題の下で、プラットフォーマーを取り巻く経営環境には追い風が吹いている感が強いが、政治的圧力は、引き続きプラットフォーマーのビジネスには強い逆風となりそうだ。
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