2つの標準シナリオを示す異例の見通し
6月10日に経済開発協力機構(OECD)が発表した世界経済見通しは、A.感染拡大双発(Double-hit)シナリオとB.感染拡大単発(Single-hit)シナリオと、2つのシナリオを共に標準シナリオとして並列で提示するという、まさに異例の見通しとなった。感染の状況という非経済的要因によって経済環境が大きく変わり得ることから、OECDはこうした異例の対応を今回とったのである。
拡大双発シナリオでは、感染の第2波が生じ、世界経済が二番底を付けるのは、2020年10-12月期であると想定されている。
ちなみに、国際通貨基金(IMF)が4月に発表した世界経済見通しでは、1つの標準シナリオに加えて、「感染拡大が長期化する」「2021年に感染の第2波が起こる」「両者とも起こる」の3つのリスクシナリオが示されていた。
OECDの今回の見通しでは、2020年の世界の成長率見通しは、双発シナリオで-7.6%、単発シナリオで-6.0%と大幅なマイナス成長である。IMFの4月の見通しでは、世界の成長率見通しは標準シナリオで-3.0%であったが、6月に公表するIMFの最新見通しでは、成長率はこのOECD見通しに近いものへと大幅に下方修正されるだろう。
主要国の2020年成長率はすべてマイナスに
双発シナリオに基づくと、OECDの平均成長率は-9.3%と2桁のマイナスに近付く。ユーロ圏の成長率は-11.5%である。
4月のIMFの見通しでは辛うじてプラスの成長(+1.2%)となっていた中国の2020年の成長率見通しも、双発シナリオではー3.7%、単発シナリオでは-2.6%とされた。先進国そして中国、インド、ブラジルなど主要新興国でも、2020年の成長率はすべてマイナスとなっている。
ちなみに、日本の2020年の成長率見通しは、双発シナリオで-7.3%、単発シナリオで-6.0%と、OECDの平均値よりも高く、世界の平均値並みとされた。
V字型回復は途中で止まる
経済ショックの後遺症の大きさや長さを強調していることも、OECDの今回の世界経済見通しでは大いに注目される点だ。底からの回復ペースは当初こそは速いものの、それは長続きしない。その結果、実質GDPや生活水準が、コロナ・ショック前の水準を取り戻すまでに相当の時間がかかる見通しである。明示はされていないものの、双発シナリオの場合には、それは3年程度ではないかと推察される。
OECDのチーフエコノミストは、「多くの人はV字型回復を予想しているが、実際にはV字型回復の途中で止まってしまうと我々は考えている」としている。また、コロナ・ショックによる失業率の大幅上昇、企業破綻の増加、感染回避傾向を強めた人々の生活様式が元に戻るまでに時間がかかることなどが、過去の景気後退からの通常の回復を妨げる、としている。
さらにチーフエコノミストは、「来年末までに失われる所得は、戦時を除けば過去100年のどの景気後退の規模をも上回る。人々、企業、政府に悲惨で長期にわたる帰結をもたらす」と述べた。
経済の後遺症は重く長く続く
金融市場は、経済活動の再開、あるいは底打ちへの期待から、楽観的なムードに転じているが、OECDの今回の見通しは、そうした楽観論を牽制するかのようである。ただし、そうした指摘は正しい。
感染拡大が収束し、経済活動が再開されれば、経済的な問題は直ぐに解消されると考えるのは、あまりにも短絡的である。ひとたび、これだけの大きな経済的ショックが起これば、その後遺症も非常に長期で甚大なものとなると考えるのが自然だろう。
経済の潜在力が低い日本では、実質GDPが下落前の2019年7-9月期の水準を取り戻すまでに、5年程度の時間がかかると筆者は考えている。その間に失われる所得は142兆円程度、1年間のGDPの4分の1程度にも相当する、極めて巨額なものである。コロナ・ショックは、現在だけではなく、我々の未来の生活をも既に相当分奪ってしまった、と言えるのではないか。
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