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5月の失業率は3年ぶりの水準

6月30日に公表された労働関連の統計は、コロナショックを受けた国内雇用情勢の大幅な悪化が、依然進行していることを裏付けた。また、非正規社員から正規社員へ、サービス業から製造業へと広がりを見せ始めていることも確認できる。雇用情勢の悪化はまだ始まったばかりであり、この先長期化する可能性が高い。

厚生労働省の一般職業紹介状況によると、5月の有効求人倍率1.20倍と前月から0.12ポイント低下し、労働需給の一段の緩和を示した。

また、総務省の労働力統計によると、5月の完全失業率は2.9%(季節調整値)と、前月の2.6%から上昇し、2017年5月以来3年振りの水準となった。

前月4月に就業者数(季節調整値)は前月比-107万人と大幅減少となった。5月の就業者は同+4万人と大幅な減少にはとりあえず歯止めがかかった形だ。4月には就業者数は107万人減少した一方で、失業者数は6万人しか増加しなかった。職を失った人の多くが、働く意志のない非労働力人口に分類されたためだ。そのため非労働力人口は94万人と急増したのである。

非労働力人口から失業者へ

解雇されたことをきっかけに、再び職業に就くことをあきらめた高齢者や主婦も中にはいただろうが、そうした人が100万人規模で生じたとはとても考えにくい。再就職の意向はあっても、求職活動を始めて失業保険の申請が受理されないと、統計上、失業者とはならない。感染を恐れてハローワークで失業保険の申請を控える人がいたことや、ハローワークの深刻な人手不足によって、手続きが滞っている可能性が考えられる。

5月の非労働力人口が前月比で21万人減少する一方、失業者が19万人とほぼ同規模で増加したのは、4月に解雇された人の失業保険の申請手続きが進んだ結果と考えられる。しかし、5月に94万に増加した非労働力人口が失業者になるプロセスは、まだ続くだろう。それだけで、失業率は4%近くまで上昇する可能性がある。

その過程は、一般職業紹介状況の新規求職者数の増加として確認できるだろう。雇用情勢が悪化する局面では、求人数の急減と求職者数の急増が見られ、有効求人倍率が急速に低下するのが通例である。現状ではまだ、求職者の増加ペースがかなり緩やかであるが、今後は求職者が大きく増加することで、有効求人倍率も急速に低下することが見込まれる。

実質的な失業率は6.9%

失業予備軍として注目されるのが、就業者でありながら働いておらず、他方で企業からは休業手当を受け取っている休業者だ。4月は前月比で348万人(原計数)増加し597万人となったが、5月には前月比174万人減少した。一時的に休業者となった人が、一部解雇された一方、多くは通常の就業者に戻ったと考えられる。

しかし、依然高水準の休業者のうち、今後、企業が休業者を維持できずに解雇されて失業者となる人、また、企業が倒産、廃業することで職を失う人は、この先も多く出てくるだろう。この点で、休業者は失業予備軍と考えることができるだろう。

5月の休業者数と失業者数を合計して仮に実質的な失業者とする場合、5月の実質的な失業率は6.9%となる。これに、4月の急増した非労働力人口に分類されている人も加えれば、失業率は8.0%となる計算だ。

雇用調整の2つの新たな傾向と自動車産業での大幅生産調整

4月には急激な就業者数の減少と休業者数の増加が見られた。これはコロナショックを受けた雇用調整の第1波と言えるだろう。5月の統計からは、雇用調整がやや沈静化する兆しも見られなくはない。

しかし、統計を詳細に見ると、雇用の調整に2つの新たな傾向が見られ始めている。3月及び4月は、パート、アルバイトを中心とする非正規社員の雇用削減が目立った。他方で5月には、正規社員の雇用調整が目立ち始めている。非正規社員から正規社員へと、雇用調整が広がりを見せているのだ。これが第1の傾向だ。

第2の傾向は、卸・小売業、宿泊・飲食業などの雇用調整に一服感が見られる一方で、5月は製造業での雇用調整が目立ち始めていることだ。

5月の鉱工業生産(速報値)は前月比-8.4%と事前予想を大幅に上回る減少幅となった。6月の予測指数も経済産業省による補正値によれば、前月比+0.2%と横ばいだ。5月の鉱工業生産で特に際立ったのは、輸出が急減している自動車の前月比-23.2%である。

雇用調整は本格的な第2波へ

自動車産業はすそ野が広く、その生産調整は多くの産業に調整圧力をもたらす。内閣府の産業連関表によると、その産業の生産が1単位増加した場合に経済全体で何単位の生産が増加するかを示す「生産誘発係数」は、自動車を含む輸送機械では2.30と業種の中では最大だ。

自動車生産の大幅調整は、多くの業種での生産調整を促し、それらは、この先、大きな雇用調整を引き起こすはずである。

コロナショックを受けたサービス業、非正規社員を中心とする雇用調整の第1波から、今後は製造業から多くの業種へと波及し、正規社員も含む形での、より本格的な雇用調整の第2波へと移行しよう。それは、来年も続く、長い調整のプロセスとなるだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。