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2020年度成長率見通しは―4.7%

7月15日の金融政策決定会合で、日本銀行は金融政策の現状維持を決めた。同時に発表した展望レポートでの経済・物価の予測値及び記述の内容も含めてサプライズはなく、無風に終わった感が強い。

日本銀行は当面、金融政策を維持しつつ、企業・雇用を支える新型コロナ対策に注力するだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)は既に、コロナ問題への危機対応から、平時の金融政策に戻った後の追加金融緩和措置の議論を始めている。しかし日本銀行は、仮に追加緩和策を検討するにしても、まだ先のことであろう。

展望レポートでは、経済・物価の見通しは「概ね前回の見通しの範囲内である」として、見通しが大きく修正されていないことが総括されている。ただし、2020年度、2021年度の実質GDP成長率、消費者物価上昇率の見通しは、小幅に下方修正されたように見受けられる。明確にそう結論付けられないのは、前回は各政策委員が予測値をレンジで示すという異例の対応をしたため、今回の結果と明確に比較ができないためだ。

2020年度実質GDP成長率で、政策委員による大勢見通しのレンジは-5.7%~-4.5%、中央値は今回-4.7%となった。前回は予測のレンジが-5.0%~-3.0%であり、各予測レンジの中で最も多くの委員が予測した水準が-4.0%程度であったことを踏まえると、明確に下方修正されていると言えるのではないか。2021年度の成長率見通しの中央値は+3.3%となったが、これも前回からわずかに下方修正されたように見える。

注目される危機対応後の物価目標の位置づけ

消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しの中央値は、2020年度については-0.5%、2021年度は+0.3%となった。2021年度については、前回からやや下方修正されたように見える。

他方で、2022年度の物価見通しの中央値は+0.7%となった。2年先までを展望しても、物価上昇率の見通しは目標値の2%程度を大幅に下回っているのである。

4月の展望レポートで、物価上昇率の先行きの見通しを一気に大幅に下方修正したことは、コロナショックは、実現がほぼ不可能な高い物価目標を、事実上放棄する絶好の機会と考えたかのようである。

ただし、少なくとも形式的には、日本銀行は2%の物価目標を依然維持している。コロナ問題が落ち着き、経済・金融環境が安定を取り戻す中、日本銀行の金融政策も危機対応から平時の姿に戻す必要がある。その際に、物価目標の位置づけを、コロナ以前からどのように軌道修正するかは、それ以降の金融政策運営を占ううえで、非常に重要な点である。

おそらく、2%の物価目標を、長期の目標とするよりソフトな目標へと徐々に変質させていくことを図るのではないか。それは、異例の金融緩和策を事実上正常化に向かわせることに道を開くものともなろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。