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人種差別問題を選挙戦略の柱に

8月11日(米国時間)に、民主党の大統領候補の座を確実にしているバイデン氏は、黒人女性のカマラ・ハリス上院議員を副大統領候補(running mate)に起用する、と発表した。同氏は、インド人とジャマイカ人の移民の娘だ。

両者は12日(米国時間)に、デラウェア州ウィルミントンで演説を行い、大統領選挙戦を開始する。17日(米国時間)の民主党大会で、同党の正副大統領候補に正式に指名されることになる。

バイデン氏は以前より副大統領候補に女性を指名する考えを明らかにしていたが、黒人の女性を選んだことは、黒人差別デモへの対応で支持率を低下させたトランプ大統領に対して、人種差別問題を選挙戦略の柱とすることを明確にしたものと言える。

また、不法移民への人道的な対応を訴えてきたハリス氏を副大統領に指名したことは、仮にバイデン政権が成立した際には、政権がこの分野では、左寄りの政策をとりやすいことを意味するのではないか。

しかし、法曹界出身のハリス氏は、経済政策についてはほぼ未知数である。同氏は、2010年にカリフォルニア州検事総長に就任した後、2016年にカリフォルニア州の上院議員に当選した。政界の経験はまだ4年に満たない。こうした点から、ハリス氏は、バイデン政権の経済政策には大きな影響力を持たない可能性が、現時点では考えられる。

次期大統領の有力候補にも

副大統領候補には、かなり左寄りの経済政策を掲げるウォーレン氏も含まれていた。もともと可能性は高くなかったとみられるが、バイデン氏が民主党内の左派を取り込むためにウォーレン氏を副大統領候補に指名し、そのもとで大統領選挙を制する場合には、バイデン政権の経済政策も左寄りの性格を強める可能性もあっただろう。

これは、民主党政権下で反企業、反富裕者の左寄りの経済政策がとられることを警戒していた米国株式市場が、大いに懸念するところであった。ハリス氏の副大統領候補指名は、この点から米国株式市場には好材料と言えるだろう。

わずかな期間の政界での経験から副大統領候補に登りつめたハリス氏は、まさに民主党の「希望の星(rising star)」と言える。ただし、ハリス氏についての人々の関心は、むしろ同氏の将来に向けられている。

副大統領は、大統領が職務を続けられなくなった場合の第1の継承順位を持つ。また、バイデン氏が大統領選挙に勝利した場合には、来年1月の就任時に78歳と史上最高齢の米国大統領となる。そのため、バイデン氏は1期4年で退任するとの観測も根強くある。その場合、ハリス氏は有力な民主党の次期大統領候補となり得るのである。

仮に、バイデン政権が成立した場合には、バイデン氏の政策手腕とともに、ハリス氏の言動も人々の注目を大いに集めることになるだろう。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。